1話5分で読めるギリシャ神話

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第十七歌 後編:不死の神馬クサントスとバリオス

パトロクロスが死んで、不死の神馬クサントスとバリオスはさめざめと泣き続けたと言います。ヘレスポントスのギリシャ船陣へも、戦いの場へも戻ろうとせず、涙を流しながら立っていたのです。なんという主人思いの神馬でしょうか。
また、この神馬は、なんとしゃべることもできるのです。アキレウスが戦いに復帰した時、彼に近づいている運命を告げます。そのことは第十九歌で触れます。

アウトメドンと不死の駿馬クサントスとバリオス(部分)
アンリ・ルニョー〈アウトメドンと不死の駿馬クサントスとバリオス-部分〉

神馬クサントスとバリオス

ギリシャ、トロイア軍がパトロクロスの遺体の周りで激しい戦いを繰り広げていた頃、パトロクロスに次ぐミュルミドネスの英雄アウトメドンのムチにも優しい言葉にも一切反応せず、神馬クサントスとバリオスは立ちすくんでいました。その瞼からは、今は亡き主人を悲しんで、熱い涙が地上に流れ落ちています。

ゼウスはそれを見下ろして、
「哀れな不死の馬どもよ、死すべき人間の中にあって、死を知るべき運命でもあったか。だが、お前たちが引く戦車にヘクトルが乗ることはない。わしが許さぬ。お前たちにも力を吹き込んでやろう。アウトメドンを無事に船陣まで乗せていけるようにな」

誰も御して戦えぬ神馬の戦車

アウトメドンは、アキレウスの戦車に乗って戦場を駆け回るだけだった。なぜなら、この神馬が引く戦車を御しながら戦えるのはアキレウスと死んだパトロクロスだけである。

それを見ていたミュルミドネス第五隊長のアルキメドンが声をかけた。
「アウトメドンよ、アキレウスの戦車で駆け回るだけで、なぜ戦かおうとしないのか?」
「アルキメドンよ、この戦車に乗ってかつ戦えるのはアキレウスとパトロクロスだけだ。そこで、おぬしに頼む。わしは降りて戦うので、手綱を取ってくれ」
アルキメドンが戦車に乗り込むと、アウトメドンは戦車から降りた。

それを見ていたへクトルは、アイネイアスを誘った。
「アイネイアスよ、わしと二人であの見事な馬を奪おうではないか。われら二人が襲いかかれば、戦おうとするはずはない」
こうして、二人は神馬のひく戦車に向かった。その後ろをクロミオスとアトレスが従った。

アウトメドン、パトロクロスの死に報いる。

「アルキメドンよ、わしのそばにしっかりついてきてくれ。ヘクトルは手強いからな」
さらに、アウトメドンは
「両アイアスとメネラオスよ、ヘクトルとアイネイアスが我らに近づいてきた。パトロクロスの遺体は他の者に任せ、我らに手を貸してくれ」
こう言って、アウトメドンが槍をトロイア勢に投げると、アトレスの楯に当たった。が、楯は貫通しアレトスの下腹を貫いた。今度はヘクトルがアウトメドンに槍を投げる。これをかわすと、アウトメドンはヘクトルと太刀で戦おうとした。

が、間に両アイアスが入り、二人を分けた。ヘクトル、アイネイアス、クロミオスはアトレスの遺体を残し退いた。
アウトメドンは、アレトスの武具を剥がすと言った。
「これで、パトロクロスの死に一矢を報い、悲しみも少しは晴れた」

靄の中の戦い
〈靄の中の戦い〉

アテネ、降臨す。

ゼウスはアテネを呼び、ギリシャ勢を鼓舞するよう命じた。女神は紫の雲に包まれて地上に降り立つと、メネラオスに老ポイニクスの姿を借りて、
「メネラオスよ、パトロクロスの遺体をトロイア勢に渡してはならぬ。そうなれば、そなたが世間の批判を浴びることになる」
「ポイニクスよ、ゼウスが手柄を与えようとしているヘクトルの勢いは火のごとく激しい。せめて、女神アテネが私に力を与えてくれれば良いのだが」

自分の名が呼ばれ、気を良くしたアテネがメネラオスの力を漲らせると、彼はパトロクロスの遺体をまたいで立った。早速やってきたトロイア軍のポデスに槍を投げる。槍は命中し、メネラオスは彼の遺体を運び出した。
すると、アポロンはヘクトルの親友に姿を変え。
「ヘクトルよ、なぜ戦わぬ。メネラオスごときに怖気を振るっているようでは、ギリシャ勢は誰もおぬしを恐れぬぞ」

ゼウス、凄まじい雷鳴を起こす。

ゼウスの意図は、トロイア軍に勝利を授けることである。ギリシャ勢は恐怖に落ちいり、潰走しはじめた。イドメネウスは、それでも追ってくるヘクトルに槍を投げつけた。槍は折れ、トロイア勢が歓声をあげた。今度はヘクトルが槍を投げ返す。イドメネウスには当たらなかったが、彼の戦車の御者に刺さった。イドメネウスはヘクトルとの戦いは避け、そのまま戦車で逃げていった。

もはや、大アイアスとメネラオスもゼウスの意図を知った。
「なんたることか、われらの槍はそれて、トロイア勢の槍はゼウスの導きで必ず命中する。こうなってはパトロクロスの遺体を運べるかどうか。さらに、このような靄ではパトロクロスの死をアキレウスに知らせる者が誰かいるか見えぬ。
ゼウスよ、どうか靄を取り払い、明るさを取り戻してください。さすれば、死んでも構いません」
ゼウスは大アイアスを憐れみ、靄を払うと、辺りは明るくなった。
「メネラオスよ、老ネストルの子アンティロコスの姿が見えるか。アキレウスに知らせる使いとしたい」

パトロクロスの遺体をめぐる戦い
〈パトロクロスの遺体をめぐる戦い〉

アンティロコス、知らせに走る。

メネラオスは、両アイアスとメネリオスに声をかけ、パトロクロスの遺体を守るように伝えると、アンティロコスの姿を見つけようとその場を去った。そして、彼を見つけ出すと、
「アンティロコスよ、勝利は今やトロイアにある。パトロクロスは討たれた。船陣に走り、アキレウスにこのことを伝えてもらいたい。アキレウスが亡骸を運んでくれるかもしれね。武具はヘクトルの手中にある」
アンティロコスは言葉を失い、涙を流した。しかし、すぐに武具を部下にあずけると、走り出した。メネラオスはパトロクロスの遺体を守りに戻り、アイアスの傍に立った。

メネラオスは、アイアスに
「アンティロコスには伝えた。だが、アキレウスは出馬せぬと思う。我らで遺体を運ぶ算段をしよう」
「メネラオスよ、メリオネスとともに遺体を担ぎ上げ、運んでくれ。我ら両アイアスが後ろでトロイア勢を防ぎながらついていく」
トロイア勢は彼らに襲いかかろうとしたが、両アイアスが振り返り、立ちふさがると戦う者は一人もいなかった。

周りでは激しい戦いは止まず、ギリシャ勢はヘクトルとアイネイアスに襲われながらも退いていった。

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