1話5分で読めるギリシャ神話

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ペネロペイアの独白 その1

ペネロペイア
ロセッティ〈ペネロペイア〉

トロイアからの最後の手紙

夫オデュッセウスがトロイアで戦っていた時には、何度か手紙をいただきました。
このままでは、もうギリシャ勢は勝てないだろうとか。でも、最後の手紙にはこうありました。

「ペネロペイアよ、わしの一計でトロイアに勝てた。屈強な戦士を隠した大きな木馬を作り、夜のうちにギリシャ軍の陣地に置いたのだ。その他のギリシャ軍はみな撤退したように見せかけ、離れた入江に隠した。

朝になり、トロイア人はびっくりしたことだろう。ギリシャ勢は、一人も見えない。おまけに、大きな木馬がある。
『とうとう、諦めたか!』
『木馬は、神々への捧げ物じゃ!』
『いや、木馬の中に兵士がいるかもしれない?』
『崖から落とせ!』
その直後、1本の槍が木馬の胴体に投げ込まれた。ほんと危なかった。

しかし、わしは偽りの兵士を残してきた。この者に『木馬は女神アテーナへの捧げ物だ』と言い含めておいた。また、『木馬の中を確認せよ』と言ったラオコーンという神官とその息子たちがウミヘビに襲われた。

これで、トロイア人は木馬は神々への捧げ物だと思い込まされたのだ。木馬が城門の中へ引き入れられると、その日は朝から晩まで戦勝気分で、街中大宴会だった。みんな酔っ払い、ぐっすり寝てしまった。

トロイアの木馬の行進
〈トロイアの木馬の行進〉

すかさず、我らは木馬から出て、トロイアを蹂躙した。だから、この勝利はわしの手柄だ。褒美も、総大将アガメムノン、弟の副将メネラオスについで多かった。楽しみに待っていてくれ。これで、わしの名声も上がった。愛するペネロペイアよ、そなたは、ギリシャ一の知恵者の夫人と言われよう」

まったく、オデュッセウスらしいわ。自分の名声を何よりあげたいと言って出陣したのだから。でも、その手紙を最後に、10年間なんの音沙汰もなかったのですよ。

でも、このトロイア戦争の10年間は、夫のちょっかいもなく、わたしは可愛いテレマコスにかかりっきりになれた。生まれたテレマコスは、本当に可愛かった。はいはいしだし、立てるようなり、すくすく育ち、毎日が楽しかった。そんな子でも10歳過ぎると、だんだん反発もするようになって......。まぁ、子供の成長ってそんなものよね。あっという間の10年間だった。

だから、トロイア陥落後、オデュッセウスが帰ってくると思うと、嬉しかったわ。でも、3年経ち、5年経ち、はや10年近く帰ってこない。いろいろな人があの人に会ったといって館を訪ねてきた。その度にご馳走したり、服も与えたわ。もう、嘘ばっかりって思っても、聞かずにはいられなかった。

さすがに「夫は、もう死んだんだ」と思ってしまう自分がいる。また、このイタケの領主を狙う有力者の息子たちから、結婚を求められるようにもなった。

機を織るペーネロペイアと求婚者たち
〈機を織るペーネロペイアと求婚者たち〉

ペネロペイアの迷いと焦り

アラサーも半ば過ぎ、私の女としての魅力もだんだんなくなる恐怖の毎日。時々、体も疼くしね。あらやだ、何言ってるの私。今言ったことは忘れて。オデュッセウスの父ラエルテス様も「もう諦めて、再婚しなさい」と言ってくる。オデュッセウスの母アンティクレイア様は、息子を心配し、悲嘆のあまり死んでしまった。

私も結論が出せず迷ってる。だから、求婚者には「お父様の着物を織り上げたら、必ず決めます」って、ごまかしている。実をいうと、昼に織っては、夜にはほどいていて時間稼ぎしてたの。でも、それがバレてしまい、時間稼ぎができなくなった。

今はもう、50人をこす求婚者とその取り巻きが館に入りびたり、我が家の酒と食べ物を食い荒らすようになってしまった。

息子テレマコスは、無法者の求婚者たちといるのが嫌になり、今スパルタのメネライス王のところに行ってる。父オデュッセウスの消息を尋ねにね。メネライス王しか相談する人はいなかったの。

ギリシャ総大将だったアガメムノンは、もういない。10年近く前のことだけど、あの時は本当にびっくりしたわね。アガメムノン大王の殺害。なんと、犯人は夫人クリュタイメストラと間男アイギュプトス。でも、本心はクリュタイメストラにちょっと同情したわ。10年間、夫婦生活はなしなんですよ、女盛りの10年間。年を取っても、男は若い乙女と再婚できるのは普通のこと。だけど、女はそうはいかない。年を取るって、女にはホント辛いことなの。わたしの場合は、もう20年女盛りが、空しく過ぎてしまった。

テレマコス、今頃どうしているかしら。無法者の求婚者たちが、テレマコスを殺す計画をしている。ああ、心配で胸が張り裂けそう。今の状況じゃ、求婚者たちに止めてと言えないし、言ったって、はぐらかされる。

ああ、テレマコス、こんな時こそ、父親が必要。役立たずのオデュッセウスめ、いったい何やっての!

(つづく)