1話5分で読めるギリシャ神話

ギリシャ神話の神・女神・英雄のエピソードが、絵画で分かりやすい。また、ギリシャ神話はあなたの美術鑑賞に役立ちます。〈1話5分で読める聖書-アートバイブル

トロイアの女たち【前編】敗戦国の女たちの悲嘆

古代の女性は、物と同じ扱いを受けていました。だから、敗戦国の女たちは戦勝国の男たちの奴隷や夜伽の相手として扱われてしまいます。
特に悲惨な女たちが、王妃や王女(男子は殺されてしまいます)。今までのきらびやかな生活から、最下層の生活に落とされるのですから。

トロイアの女たち
〈東京大学・資料〉

エウリピデス作【トロイアの女たち】前編

女神アテネ、トロイアに加担した伯父ポセイドンに頼む

(夜明け前、トロイア城外のギリシャ軍の陣営。天幕の中には、捕虜となったトロイアの女たちが収容されいる。ただ一人外に出て伏せっているトロイア王プリアモスの妻ヘカべ)

(海神ポセイドン登場)
ポセイドン
その昔、アポロンと共に築いた城壁も今や灰塵に帰してしまった。アテネの入れ知恵によってポキス人のエペイオスが木馬を作り、その中に兵士が潜み、トロイア城内に入れてしまったからだ。ゼウスの祭壇の階段に、プリアモス王の死骸が見える。
トロイアの女どもは奴隷の身となって、天幕の中で嘆いておる。この戦争の原因となったヘレネも、捕虜となってその中にいる。
ヘカべの娘ポリュクセネは、アキレウスの墓の前で命を奪われたばかり。もう一人の娘カッサンドラー。彼女をギリシャの総大将アガメムノンが己の側女として求めている。
(女神アテネ登場)
アテネ
偉大なる神ポセイドンよ、お話があります。
ギリシャの軍勢の帰国に手痛い打撃を与えてやりたいと思っているのです。
ポセイドン
ギリシャに加担したアテネよ、激しいお気の変わりよう。
アテネ
それでは、この私と私の社とがひどい恥辱を受けたのはご存知ありませんか。
ポセイドン
知っている。小アイアスがカサンドラをあなたの社で手ごめにしたこと。
アテネ
それなのに、ギリシャ人は誰も罰しようとも咎めようともしません。
だから、お力をかりて、彼らに思い知らせてやりたいのです。
このトロイアの地を船出する時、父ゼウスが空を曇らせ、旋風を起こし、雷で船を焼き捨てる約束もできています。その後、ポセイドンよ、エーゲ海を怒涛で湧き立たせ、渦潮に巻き込ませて欲しいのです。
ポセイドン
それでは、そなたはオリュンポスに戻り、いつ決行するか待っていればよかろう。
(アテネ退場)
ポセイドン
愚かななる人間どもめ。町を壊し、神の聖なる社を荒らした咎で、今度はみずから破滅せねばならぬとは。
(ポセイドン退場)

トロイアの女たちの不安と悲しみ

(身を起こすヘカべ、悲嘆の歌を歌う)
ヘカべ
すでにトロイアはなく、
われらも、もはやトロイアの主にあらず。
運命の移りゆくままに、耐え忍べ。
国を失い、子らも夫も失った哀れな私、
嘆いてはなるまいか。
メネラオスの憎むべき妻ヘレネ、
スパルタの汚辱ともいうべき
彼女こそ、五十人の子らの父
夫プリアモスの生命を奪い
この憐れなるヘカべをば
悲運の底に落とし入れる。

コロス=トロイアの女たち、天幕から出てくる)
コロス
ヘカべ様、何をそのように歌っておられます。
ヘカべ
ギリシャの船の辺りでは、船出の用意に忙しい。
何か、よからぬことが起こる気がする。
コロス
ああ、われらトロイアの女たちの悲しい運命。
ヘカべ
おお、心狂うたカッサンドラーは外に出さないでくださらぬか。
あんな姿をギリシャ人に見られるのは耐え難い恥辱。
コロス
ああ、私たちは誰の奴隷にされるのでしょう。
ギリシャ人の夜伽の役か、ああ、それはいかに呪わしい夜であろうか。
かなうならばテセウスのアテナイが望み。スパルタのメネラオスには仕えたくはない。
コロスの長
向こうから、ギリシャの触れ人がやってくる。

(触れ人タルテュビオス登場)
タルテュビオス
ヘカべよ、そなたたちの割り当てが決まった。
ヘカべ
憐れな娘カッサンドラーは誰のものと決まりましたか。
タルテュビオス
総大将アガメムノン様が所望した。
ヘカべ
おお、ではあのヘレネの姉妹クリュタイムメストラに仕えることに。何ということに。
タルテュビオス
そうではない。大将ご自身の夜伽の役じゃ。
ヘカべ
では、さっき連れて行った娘ポリュクセネはどどうなりました。
タルテュビオス
それは......。アキレウスの墓に使えることになった。
運命の手によって、あらゆる苦悩から救われたのじゃ。
ヘカべ
墓に使える、どういうことか......?
では、ヘクトルの妻アンドロマケの運命は?
タルテュビオス
アキレウスのご子息ネオプトレモスが望んだ。
ヘカべ
では、この足腰も立たぬ私は誰のもとに?
タルテュビオス
オデュッセウスに決まった。
ところで、カッサンドラーはどこだ。大将の元へ連れて行かねばならぬ。

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