1話5分で読めるギリシャ神話

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エコーとナルキッソス

ナルキッソス
カラバッジオ〈ナルキッソス〉バルベリーニ古代美術ナショナル・ギャラリー

おしゃべりエコー、ヘーラーの罰を受けて

エコーは狩の女神アルテミスの美しいニンフのひとりですが、おしゃべりという一つの欠点がありました。

ある日、浮気にうつつをぬかす夫ゼウスを探しに妃のヘーラーが、ニンフ達のところにやってきました。エコーは、ニンフ達をヘーラーが色々聞くという煩わしさから逃がしてやりました。それに気付いたヘーラーはエコーに怒り、罰をあたえました。
「おしゃべりな舌はもう使えなくしてやる。もはや、おまえから最初に口をきくことはかなわぬ。が、応えることは許してやろう」

そんなエコーは美しいナルキッソスという青年が狩りをして、泉で休んでいるのを見かけました。彼に一目惚れをしたエコーですが、ヘーラーの罰から自分から話しかけることができません。どんなにか、もどかしく辛い思いをしたことでしょう。

ナルキッソスは仲間からはぐれてしまい、大声で叫びました。
「誰かいるかい、この近くに(Here)?」
「ええ、いるわ(Here)」
ナルキッソスはあたりを見わたしましたが、誰もいません。
「来ておくれ(Come)」
「いま行くわ(Come)」
「どうして、姿を現さない?一緒になろう」
「一緒になろう」

ナルキッソスの残酷な仕打ち

エコーは言葉を繰り返しながら姿をあらわすと、青年の首にしがみつこうとしました。すると、青年は残酷にも言いすてました。
「手を離してくれ!死んだ方がましさ、おまえなんかに抱かれるくらいなら!」
「抱かれるくらいなら......」
彼女の言葉もむなしく、ナルキッソスはその場を去っていきました。

エコーとナルキッソス
アレクサンドル・カバネル〈エコー〉メトロポリタン美術館

エコーは身も心もやつれ、ついに声だけの存在になってしまいました。そして、自分を呼ぶものには、誰にも返事をすることにしました。

ナルキッソスは、他のニンフにも冷酷な仕打ちをしていました。その中の一人の乙女は、神に祈りを捧げました。
「ナルキッソスにも、身を焦がすかなわぬ恋をさせてください」
復讐の女神ネメシスが、その祈りを聞き入れました。

水面に映る美しい青年に恋をするナルキッソス

山の奥に水の澄んだ泉があり、表面は銀盤のように輝いています。ナルキッソスは狩りと暑さとから、この泉にやってきました。水を飲もうとして屈み込むと、「アッ!」と思い、動けなくなりました。水の中に、泉の精かと思うほどの美しい青年がいたからです。アポローンのような美しい巻き毛、光り輝く目、ふっくらとした頬、ぷるんとした唇...

接吻しようと唇を近づけ、抱こうとして両腕を水の中にいれると、相手は消えてしまいます。が、しばらく見ているとまた戻ってきます。ナルキッソスはその場を離れることができなくなりました。

「なぜ、君は僕を避ける? 微笑みかけると微笑み、手を伸ばすと手を伸ばすのに、なぜ僕を避ける?」目から涙がこぼれると、その波紋で相手はまた消えそうになりました。
「待っておくれ、お願いだ。触れることがかなわぬなら、せめて見つめることだけは許してほしい」ナルキッソスは寝食も忘れ、やつれ果てていきました。

エコーを魅惑したあの美しさも失われました。「ああ、あぁ!」とナルキッソスから吐息がもれると、今でもエコーだけが「ああ、あぁ!」と応えます。ナルキッソスに死が訪れると、その体は消え、彼がいた泉のほとりに「スイセン」の花が一輪咲いていました。

エコーとナルキッソス
ニコラ・プッサン〈エコーとナルキッソス〉ルーヴル美術館