【アラクネー】クモになった乙女
(更新日:2023.03.26)
ディエゴ・ベラスケス〈アラクネの寓話(織女たち)〉プラド美術館
乙女アラクネーのおごり
織物の得意な乙女が、女神アテーナに挑みました。彼女の名は、アラクネー。彼女の織物の技は素晴らしく、できあがった織物だけでなく、作業する姿も美しいものでした。森や泉のニンフたちが、アラクネーが織っている姿をいつも見ていたほどです。
そして、アテーナが自ら教えたのではないかと噂されていました。
しかし、アラクネーはこれを否定し、弟子と言われるのを嫌いました。その上、こんな言葉まで言っていたのです。
「女神アテーナと勝負してみたいものだわ、負けたらどんな報いでも受けましょう」
「女神は、今ここにいます」
これを聞いた女神アテーナは怒り、老婆に身を変え、アラクネーに忠告しにきました。
「年寄りの言うことはよく聞きなさい。勝負は同じ人間同士でしなさい。決して、女神さまと争ってはなりません。そして、前に言った言葉を女神さまに赦してもらいなさい。女神さまは慈悲深いお方だから、きっと赦してくださいます」
アラクネーは織っていた手をとめると、キッと老婆をにらんで言いました。
「そんな忠告なんて、他の人にしてちょうだい。私は一歩だって引かないし、あんな女神なんかちっとも怖くないんだから。今すぐ、勝負したいものだわ」
「女神は、今ここにいます」
アテーナはこう言うと、神の姿を現しました。回りにいたニンフたちはあっと驚くと、すぐ頭を下げました。
しかし、アラクネーだけは態度を変えることはなく、きっと女神をにらみつけます。一瞬、顔は赤くなりましたが、その後青ざめたようにも見えました。
女神アテーナとアラクネーの織物対決
アテーナの織物は、様々な色合いが見事なものでした。
ポセイドーンとの都市アテーナイ争い(下記参照)の図では、周りにはそれを見守るオリュンポスの12神が描かれています。ポセイドーンが大地を三叉の矛で撃つと、精悍な馬が出現し、アテーナ自身は兜をかぶり、アイギスの楯を持った姿でした。四隅には様々な戦いの図が描かれていたのは、アラクネーにこの対決をやめるよう警告していたのです。
一方のアラクネーの織物も見事でした。それは神々の失敗や過ちを描き出していました。
アポローンの母レーダーが抱きしめている白鳥(実はゼウス)、閉じ込められたペルセウスの母になるダナエーに降り注ぐ黄金の雨(これもゼウス)、エウロペーを連れ去る牡牛(これまたゼウス)と、彼女の神々への不遜な心と不敬の念を強く表現していました。
アテーナさえ、アラクネーの織物の技には感嘆せずにはいられませんでした。しかし、こうした神々への侮辱には怒りも感じました。
手にした梭(ひ:織り機の用具)で織物をずたずたに裂いてしまいます。それから、アラクネーの額に手を当て、彼女にその思い上がりを悟らせようとしました。だが、アラクネーは反省することもなく、我慢できずに首をつって死んでしまいました。
クモになったアラクネー
女神アテーナは、アラクネーが首をつった紐に手をふれると、憐れむように語りかけました。
「生き返りなさい、罪深い乙女よ。今日のことを忘れないように、子孫代々ぶら下がり続けなさい」
そのあと、女神はアラクネーの身体にトリカブトの液をかけました。すると、髪は抜け、鼻もなくなり、身体は縮んで頭は小さくなり、指は胴体にくっつくと細長く伸びました。クモになったのです。それ以来、クモは糸を出してはぶら下がり、糸を紡いでは巣を作り続けているのです。
女神アテーナと海神ポセイドーンの争い
アテーナイの最初の王・ケクロプスの時代に、アテーナはポセイドーンとある都市をかけて争いました。有益な贈り物をした神にこの都市をささげるという条件でした。ポセイドーンは馬を、アテーナはオリーブの木を贈りました。オリュンポスの神々はオリーブの木の方が有益だと判断して、この都市(アテーナイ)をアテーナに与えたのです。それで、この町は「アテーナイ」と呼ばれることになりました。
女神アテーナはゼウスの頭から、完全に武装した成人の姿で、飛び出したと言われています。実用的な技術、装飾的な技術を司り、知恵と戦いの神です。その力は防御するもので、軍神アレースのような攻撃的なものではありません。