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メネラオスとパトロクロス〈メネラオスとパトロクロス〉

メネラオス、奮戦する

メネラオスは、パトロクロスをまたいで遺体を守っていました。パトロクロスに最初に槍を突き刺したパントオスの子エウポルボスは、
「メネラオスよ、そこから引き下がれ」

かつて、パントオスの子を殺していたメネラオスは、
「お前も兄弟と同じように痛い目に会う前に、とっとと去れ」
「今ここで兄弟の仇は取ってやる。そうすれば、両親の悲しみも和らぐであろう」
だが、メネラオスは難なくエウポルボスを討ち取ります。

アポロンはメンテスの姿となり、ヘクトルに告げます。
「ヘクトルよ、剛勇アキレウスの神馬を追っても、馴らすことも御することもできまい。メネラオスが、エウポルボスを討ち取ったぞ」
ヘクトルは、メネラオスのいるパトロクロスの遺体の処へと向かいます。

メネラオスの迷い

『ただアキレウスのためにパトロクロスの遺体を守りたいが……単身でヘクトルとトロイア勢とを相手にしては囲まれてしまう』
ヘクトルの姿を認めると、メネラオスは後ろ髪を引かれる思いで、その場を離れました。

味方の陣に着くと、大アイアスを探します。
「アイアスよ、来てくれ。死んだパトロクロスのために、せめて遺体だけでもアキレウスに届けたい。今ごろ武具は、ヘクトルに剥がされているだろう」

その頃、ヘクトルはパトロクロスの武具を剥ぎ取ると、首を胴体から切り落としました。
しかし、大アイアスが近づいてくると、ヘクトルは戦車に乗り込み、武具はトロイア勢の手下に渡し、城に持ち帰るよう指示しその場を去りました。

大アイアスは大楯でパトロクロスの遺体を隠し、メネラオスはアイアスの隣に立ちました。

ヘクトル、アキレウスの武具を身につける

リキュエ勢の死んだ大将サルペドンに次ぐ副将グラウコスは、ヘクトルが戻ってくると彼を非難しました。
「ヘクトルよ、世間では高い評判も、おぬしには虚名に過ぎぬ。おぬしはサルペドンを置き去りにした。もはや、リキュエ勢はトロイアのために誰も戦わぬ。せめてパトロクロスの遺体を奪えば、ギリシャ軍はサルペドンの武具と交換してくれたであろう。それなのに、おぬしはアイアスと戦う勇気がなく帰ってきた」

「グラウコスよ、アイアスと戦う勇気がないなどとけしからぬことを申すな。では、側に来てわたしの働きぶりを見てくれ。すぐにも、腰抜けかどうかわかるだろう」
ヘクトルは、アキレウスの武具を城に持って帰る手下に追いつくと、その武具を身につけました。

ゼウス、ヘクトルを見下す

これを見ていたゼウスは、
『哀れな男よ、身近に迫っている死に気づきもしない。己の分際もわきまえてもおらぬ。しかし、もうしばらくはそなたに力を授けよう』

ゼウスは、アキレウスの武具をヘクトルの体に合わせると、軍神アレスがその体内に乗り移りました。

ヘクトルの気と力がみなぎり、ヘクトルは大声で、味方の一人ひとりに声をかけます。
「救援に駆けつけてくれた部隊の方々よ、もしあのアイアスを退けてパトロクロスの遺体を奪ってきたら、誰であれ、戦利品の半分を分け与え、私に匹敵する名誉も与えよう」

パトロクロスの遺体を巡る攻防

ヘクトルの声に救援部隊の意気は上がり、大アイアスに躍りかかっていきました。しかし、多数の者が、逆に命を奪われてしまうありさま。

それでも、大アイアスは、
「メネラオスよ、パトロクロスの遺体も気にかかるが、わが身とおぬしの身に何か起こらぬか気がかりだ。われらの前には、死の深淵が口を開けているかのようだ。だから、大声で仲間を呼んでくれ」

大声で有名なメネラオスは叫びました。
「パトロクロスの遺体がトロイアに奪われぬよう、誰でもいい、ここに集まってくれ~」

この声に応えて、小アイアス、イドメネウス、メリオネス勢が集まってきました。すぐさま、パトロクロスの遺体の周りに楯の柵を作り始めます。

ゼウスは、濃い靄でギリシャ勢の周りを包みました。パトロクロスの遺体がトロイア軍に奪われるのを避けるためです。

そんな靄の中で、両軍はパトロクロスの遺体の奪い合いで激しい戦いを繰り広げてます。ヘクトルは大アイアスに槍を投げましたが、アイアスはこれを難なくかわします。

アイネイアス、奮起する

ギリシャ勢が優勢になると、トロイア勢は逃げ腰になってきました。

アポロンはアイネイアスの父アンキセスの老伝令使ペリパスに姿を変えると、
「アイネイアスよ、今ゼウスはわが軍が勝つことを望んでいます。それなのに、あなたは戦おうとはしないのですか」

アイネイアスは、ペリパスが神であると気づくと、
「ヘクトルよ、トロイア勢並びに援軍部隊の方々よ、今いずれかの神が『ゼウスがわれらの助太刀をしてくださる』と告げられた。さらば、ここで引き下がってはならぬ。パトロクロスの遺体を奪われてはならぬ」

アイネイアス自らは先陣よりもはるかに前に自陣を構えると、トロイア勢は息を吹き返します。

こうして、両軍はパトロクロスの遺体をめぐって、火のような勢いで戦い始めました。

ギリシャ勢も声をかけあいます。
「戦友たちよ、今われらが船に引き返すのは名誉なことではない。遺体を敵に渡すぐらいなら、大地が避けて全員飲み込まれた方がましだ」

一方のトロイア軍も奮い立って
「もはやわれら全員がここで討ち死にする運命であろうと、一人として戦いから退いてはならぬ」