1話5分で読めるギリシャ神話

ギリシャ神話の神・女神・英雄のエピソードが、絵画で分かりやすい。また、ギリシャ神話はあなたの美術鑑賞に役立ちます。〈アートバイブル〉も、絵画でわかりやすい聖書です。

アポローンとダフネー

ダフネを追跡するアポロン
カルロ・マラッタ〈ダフネを追跡するアポロン〉ベルギー王立美術館所蔵

若きアポローン
大洪水の後、肥沃となった地上には様々な生物や怪物が育っていました。中でも、パルナッソス山に住むピュトーンと呼ばれる大蛇が、人間の脅威となっていました。

そのピュトーンを弓矢で退治したのが、若きアポローンです。そのことを得意に思っていた彼は、小さいエロースが弓矢を持っているのを見て言いました。
「おい、いたずら坊主。そんな危ない弓矢を持つんじゃない!弓矢は、私みたいな怪物を倒した者のみが持つ武器なんだ。わかかったら、松明でも恋の火にして、決して弓矢なんか持つんじゃない」

エロースの金の矢と鉛の矢
「アポローンさん、ボクの矢はあなたの胸にだって刺さるんですよ」
そう言うと、エロースは恋心を燃やす〈黄金の矢〉でアポローンの胸を射抜きました。たちまち、アポローンは初めて見たダフネーへの恋にとらわれてしまいました。アポローンの初恋でした。

一方、エロースは恋をはねつける〈鉛の矢〉で河の神ペーネイオスの娘ダフネーの胸を射抜きました。ダフネーは「恋など汚らわしい」と思うようになり、言いよる男性は、ずべて拒否するようになりました。父は娘に「結婚して、私のためにも孫を生んでおくれ」と頼みました。が、ダウネーは「あの女神アルテミス様のように、私を処女のままでいさせて下さい」と父の首にすがりつきました。

ダフネーの父の不安
〈その美しい顔がそうはさせないだろう......〉父は不吉な思いにとらわれました。
アポローンは何とかしてダフネーと結婚したくてたまりません。全世界に神託を授ける彼自身でさえ、恋は盲目というのでしょうか。自分の運命は見えなかったようです。

「髪の毛がみだれていても、あの美しさ! きちんと結ったらどれほどの美しさになるだろう!」
ダフネーの瞳、唇、むき出した肩、腕の美しさ、さらに隠れたところを想像すると、もう見ているだけでは満足できません。ダフネーを追いかけるようになりました。

彼女は軽やかに風のように逃げ回ります。「待っておくれ、話だけでも聞いておくれ」と、追いかけるアポローンの頼みに立ち止まろうとはしません。

「僕はゼウスの子、歌と竪琴の神、デルポイの神託を授ける神なのだ。だから、逃げないでおくれ、つまずいたりしないか、怪我をしないか心配なのだ。ゆっくり駆けてくれれば、ゆっくり追いかけるよ」
ダフネーにはその声は届かず、走りつづけます。その後ろ姿にさえ、アポローンはうっとりしてしまいます。

「ああ、僕の矢よりもっと手痛い矢が胸を貫いてしまった!医師の神であるこの私でさえ、癒やす薬草を知らない」アポローンは恋の翼に乗り、恐怖の翼に乗ったダフネーを追いかけます。

アポローンとダフネー
フランチェスコ・トレヴィザーニ〈アポローンとダウネー〉エルミタージュ美術館

月桂樹へ変身するダフネー
とうとう、アポローンの息吹きがダフネーのうなじにかかりそうになった時、彼女は叫びました。
「お父さま、助けて〜。私を隠して〜。でなければ私の姿を変えて下さい。お父さまにもらったこの姿のために、私はこんな恐ろしい目にあっているのです!」

ダフネーの叫びが終わるか終わらないうちに、彼女の手足はこわばり、その胸は樹の皮に包まれました。髪の毛は葉に、腕は枝となり、足は地面にしっかりと根付いていきます。びっくりしたアポローンは、まだその中ではダフネーの身体がふるえている樹を抱きしめ、樹にキスをしようとしました。しかし、樹になったダフネーはそれさえも拒むのでした。

アポローンは誓いました。
「きみをもう妻にはできない。が、この樹〈月桂樹〉は枯れることのない僕の聖樹にしよう。勝者の冠にしよう!」
それに答えるかのように、月桂樹の枝が一瞬ゆれました。

アポローンとダウネー
ベルニーニ〈アポローンとダウネー〉ボルゲーゼ美術館