1話5分で読めるギリシャ神話

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第十九歌後編:ブリセイスの嘆き、神馬クサントス

古代ギリシャでは、戦いに負けた国の女性は、奴隷や側女となって戦勝国の勇者のものとなります。容姿優れた女性は、正妻になることもあります。ブリセイスはその一人で、アキレウスの正妻になっていてもおかしくない美しい女性だったのです。
しかし、夫と息子を殺された女性は、すんなり殺した相手の側女となったり、妻になったりできるのでしょうか?
今の時代では考えれないことですが、それが古代ギリシャのしきたりなのです。最後に、神馬クサントスがアキレウスの死を予言します。

ブリセイス
ジュリアン・ミッシェル・ゲー〈ブリセイス〉

アガメムノン贈り物をし、供儀をとり行う。

若い兵士たちは、贈り物と女7人を集会場に運んできます。その中には、アキレウスの怒りの原因となったブリセイスもいます。
アガメムノンは猪の毛を切り取り、供儀に取りかかりゼウスに祈願し、
「ゼウスよ、そして大地女神、陽の神、エリニュスの神もご照覧あれ。私はブリセイスに指一本触れたことはありませぬ。娘は清い体のままです。もし、この誓言に偽りがあるなら、どれほど多くの苦難を加えられても厭いません」
そういうと、猪の喉を切り裂いた。

アキレウスは、
「父神ゼウスよ、あなたはなんという凄まじい迷妄を人間にお与えになったことか。さもなくば、アガメムノンも私に怒りをかきたてることもなく、ブリセイスを連れて行くこともなかった。また、大勢のギリシャ兵が死ぬこともなかったでしょう。
さあ、みなのものは戦いに備えて、食事にかかってくれ」

集会は終わり、一同は食事をするために帰って行った。贈り物とブリセイスを含む女たちは、ミュルミドネス勢によって、アキレウスの陣屋に運ばれた。

ブリセイスと女たちの嘆き。

アキレウスの陣屋に着くと、ブリセイスはパトロクロスの遺体に向かって、
「ああ、パトロクロス、あなたは私がこの陣屋を出る時にはまだ生きておられた。どうしてこうも、わたしの不幸は続くのでしょう。わたしの夫のミュネス城がアキレウスに落とされた悲運の日、夫と3人の兄弟を失ったわたしが泣いている時、あなたは優しく声をかけてくれた。『いずれ、プティエでアキレウスの正式な妻にしてやろう』と、何度も何度も言ってくださった。ああ、優しかったあなた......」
他の女たちも、みな悲しみの声をあげている。うわべはパトロクロスのためであるが、実はみんな自分の不運を嘆いてのことなのだ。

アキレウス、悲しみで食事を口にしない。

長老たち、アガメムノンとメネラウス、オデュッセウスらは、アキレウスに食事をすすめたが、
「頼むから、そんなことは言ってくれるな。悲しみに襲われている。
ああ、不運な男よ、パトロクロス。そなたの父がこの悲報を聞いて、涙を流していることだろう。その名を聞くだけで身の毛がよだつヘレネのために、息子は異国の地でトロイア勢と戦っていたのだ。私の父ペレウスも同じこと。いつ私の悲報が来るか、悲しみにくれておいでになろう」
アキレウスが泣きながらそう言うと、その場にいた長老たちももらい泣きをする。

アテネ、アキレウスに神々の食事を与える。

見ていたゼウスも憐れみをもよおし、アテネに向かい言いつけた。
「娘よ、アキレウスを見限ってしまったのか。彼は悲しみで食事を取ろうともしない。さあ、行ってネクタルとアンブロシアを与えてやってこい」
すでにその気になっていたアテネは、鷹の姿になってアキレウス目指して降りて行った。

すると、胸に耐え難い悲しみがあったアキレウスの両眼は輝きはじめた。その手に持ったずっしりと重い神ヘパイストスの大楯からは、高天に届くほどの輝きが放たれた。また、誰にも振るうことができぬケンタウロス族の賢者ケイロンが父ペレウスに贈った槍も手にした。馬の手配はアウトメドンとアルキメドンがし、アウトメドンはそのまま戦車の御者となった。

神馬クサントスの予言。

アキレススは戦車に乗り込むと叫んだ。
「クサントスにバリオス、今度は戦いの後、乗り手が無事帰れるよう心せよ。パトロクロスの亡骸をその場に置き去りにしたような真似はするな」

神馬クサントスはそう言うアキレウスに語った。じつは女神ヘレがしゃべらせたのである。
「アキレウスよ、あなたの身はお守りしましょう。ですが、あなたの最後の日は迫っているのです。それは、われらのせいではなく、運命の女神がなさること。パトロクロスの死もわれらの動きが鈍かったせいではなく、アポロン神がヘクトルに功名を立てさせられたのです。さる神とさる勇者の手により、あなたが最後を遂げるのも、あなたの運命なのです」

「クサントスよ、どうしてわしの死を予言する。いらざること。自分でよく承知している。とはいえ、トロイア勢、いわんやヘクトルには苦渋を飲ませてやる」
アキレウスは、軍勢の中央にあった。

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