1話5分で読めるギリシャ神話

ギリシャ神話の神・女神・英雄のエピソードが、絵画で分かりやすい。また、ギリシャ神話はあなたの美術鑑賞に役立ちます。〈アートバイブル〉も、絵画でわかりやすい聖書です。

テレマコス、父オデュッセウスに会う

オデュッセウスとテレマコス父子の再会
〈オデュッセウスとテレマコス父子の再会〉後ろにいるのは女神アテーナ

〈オデュッセイア 第十六歌〉

テレマコス、豚飼いエウマイオスの牧場に着く

テレマコスが農場に近づいても、番犬が吠えることはなかった。犬はテレマコスを知っていたからだ。
豚飼いエウマイオスもテレマコスが目の前にやってくると、大粒の涙をはらはらとこぼれ落とした。テレマコスをかき抱くと、喜びの声を出した。
「ピュロス、スパルタへ船出なさった時は、再びお目にかかれるとは思いませんでした」
「心配をかけてすまなかった。ところで、爺よ、母は再婚の決断をしただろうか」
「いえ、奥方様は苦しみに耐え、返答をはぐらかしておられます」

家の中に入ると、オデュッセウスも交えて、近況を話し合った。
「爺よ、私がスパルタより無事に帰ったことを、母上に知らせに行ってほしい。くれぐれも他の者に知られないように」
「わかりました。して、ラエルテス老にも知らせたほうがよろしいでしょうか。若様が出かけられてからは、落胆し、ため息をつき、衰えるばかりです」
「それはお気の毒なこと。だが、今は大事な時、誰にも悟られてはならぬ。母上から誰かに知らせるよう伝えてくれ」

こうして、豚飼いエウマイオスは、ペネロペイアへ知らせに出かけた。

テレマコス、オデュッセウスに会う

女神アテーナは、オデュッセウスだけに見えるように現れ、小屋から彼を連れ出し、黄金の杖でふれ、元の立派な体に戻した。
「オデュッセウスよ、全てをテレマコスに話して、求婚者どもをやっつける思案をせよ」

オデュッセウスが小屋に入ると、テレマコスはビックリして言った。
「あなたは、今そこにいたボロを着たじいさんか? なんと、天にお住いの神様だったのですか。どうか、私たちを憐れんでください」

「テレマコスよ、わしは神でない。そなたの父オデュッセウスだ」
こういうと、父は子に接吻した。テレマコスはあとずさった。
「いえ、そんなはずはありません。人間がそのようにすぐ変身できるはずはありません」
「女神アテーナのお力添えがあってのことだ」と、父は微笑んだ。
テレマコスは涙を流しながら、父オデュッセウスに抱きついた。父は子にイタケへの帰還のことなど話し、今後のことに話を持っていった。

オデュッセウスの企て

「さあ、求婚者どもの数を教えてくれ。策を練ろう」
テレマコスが館の状況を説明すると、オデュッセウスが策を話した。
「館に入ってから、わしが求婚者どもに殴られたり、足蹴にされたり、どんな扱いを受けようと我慢して、わしの合図を待て。合図をしたら、広間にある武器という武器を蔵にしまうのだ。わしらのためには、太刀2本、槍2本、盾2つを用意しておけ。
もう一つ。どの女中や召使いが、今どんな気持ちを持っているか、我らを尊んでいるか、求婚者にへりくだっているか探り出さなければならぬ」

求婚者たちの謀略

その頃、豚飼いとテレマコスの船の従者とがたまたま一緒になって、女中に囲まれたペネロペイアに報告した。
「奥方様、ご子息はただいまご帰国なされました」

テレマコスの帰国を女中から聞いた無法者の求婚者たちは、広場から中庭に移り、談合しはじまた。
エウリュマコスが口火を切った。
「テレマコスは大それたことを仕上げたものだ。もう、海に配した刺客は引き上げさせよう」
アンティノオスは言った。
「こうなったからには、テレマコスはここで殺してしまおう。頭も切れるやつだから、集会場で領民を集める前にな。領民はわしらに好意を持っておらぬからな」

ペネロペイアに一番気に入られていたアンピノモスが、それに反対した。
「私は、テレマコスを殺すことには賛成できぬ。なぜなら、王の一族を亡き者にしようとするのは恐ろしいことだからだ。神のご意志を聞こうではないか。私は、どちらにせよ、それに従おう」
彼の意見がもっともとし、みな屋敷に入った。

ペネロペイア、求婚者に訴える

テレマコス暗殺のことを耳にしていたペネロペイアは意を決し、アンティノオスに訴えた。
「アンティノオスよ、そなたは思慮も弁舌も優れていると評判だ。が、わたしはそうは思わぬ。そなたは乱心者だ。なぜ、テレマコスを殺そうとするのか。

そなたの父上が海賊に加担し、テスプロトイ国に害を企てた時、その国の領民が憤慨し、そなたの父上を打って、その財産を食い潰そうとしました。それを止めたのが、わが夫オデュッセウスです。それなのに、我が家の財産を食いつぶし、私に求婚し、息子まで殺そうとするのは、もうお止めください」

エウリュマコスがそれに答えた。
「賢明なペネロペイアよ、安心なさるがよい。テレマコスに手をかけるものは、今もこれからも誰一人おりません。そのような者は、我らの槍で、血を流すことになりましょう。ただ、神ののぞむ死は、免れる術はありませんが...」
こう話した当人が、一番テレマコスを亡き者にしようとしていた。

その頃、豚飼いエウマイオスが、牧場に帰ってきた。
「ヘルメスの丘を通っていた時、快速の船が一艘、入江に入りました。見ていると、槍と盾を持った者どもが降りてきました。きっと、テレマコス様の刺客でしょう」