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オデュッセウスとテレマコス父子の再会オデュッセウスとテレマコスの再開。後ろにアテナ〉

テレマコス、豚飼いエウマイオスの牧場へ

テレマコスが農場に近づいても、番犬が吠えることはありません。犬はテレマコスになれているからです。
豚飼いエウマイオスもテレマコスが目の前にやってくると、大粒の涙をはらはらと流しました。テレマコスをかき抱くと、喜びの声も出しました。

「ピュロス、スパルタへ船出なさった時は、再びお目にかかれるとは思いませんでした」
「心配をかけてすまなかった。ところで、爺よ、母は再婚の決断をしましたか」
「いえ、奥方様は苦しみに耐え、なんとか返答をはぐらかしておられます」

テレマコスは家の中に入ると、これからの話をしました。
「爺よ、私がスパルタより無事に帰ったことを、母上に知らせに行ってほしい。くれぐれも他の者に知られないように」

「わかりました。して、ラエルテス老にも知らせたほうがよろしいでしょうか。若様が出かけられてからは、落胆し、ため息をつき、衰えるばかりです」

「それはお気の毒なことをしてしまった。だが、今は大事な時、誰にも悟られてはならぬ。母上から誰かにラエルテス老に知らせてもらおう」
こうして、豚飼いエウマイオスは、ペネロペイアに知らせに出かけました。

テレマコス、父オデュッセウスに会う

女神アテナは、オデュッセウスだけに見えるように現れ、小屋から彼を連れ出し、黄金の杖でふれ、元の立派な体に戻しました。
「オデュッセウスよ、全てをテレマコスに話して、求婚者どもをやっつける思案をせよ」

オデュッセウスが小屋に入ると、テレマコスはビックリしました。
「あなたは、今そこにいたボロを着たじいさんか? なんと、天にお住いの神様だったのですか。どうか、私たちに手をかしてください」

「テレマコスよ、わしは神でない。そなたの父だ」
こういうと、オデュッセウスはテレマコスに接吻しました。テレマコスは驚いてあとずさります。

「いえ、そんなはずはありません。人間がそのようにすぐ変身できるはずがありません」
「女神アテナのお力添えがあってのことだ」と、父は微笑みます。

テレマコスは父に抱きつ、涙を流しました。父は子にイタケへの帰還のことなど話し、今後のことも話し合いました。

オデュッセウスの企て

「さあ、求婚者どもの数を教えてくれ。策を練ろう」
テレマコスが館の状況を説明すると、オデュッセウスが策を話しました。
「館に入ってから、わしが求婚者どもに殴られたり、足蹴にされたり、どんな扱いを受けようと我慢せよ。そして、わしの合図を待て。合図をしたら、広間にある武器という武器を蔵にしまうのだ。わしらのためには、太刀2本、槍2本、盾2つを用意しておけ。
もう一つ。どの女中や召使いが我らの味方か、求婚者にへりくだっているか探り出さなければならぬ」

求婚者たちの謀略

その頃、豚飼いと船の若者とがたまたま一緒になって、女中に囲まれたペネロペイアに報告しました。
「奥方様、ご子息はただいまご帰国なされました」

テレマコスの帰国を通じていた女中から聞いた求婚者たちは、広場から中庭に移り、談合しはじめました。エウリュマコスが口火を切ります。
「テレマコスは大それたことを仕上げたものだ。もう、海に配した刺客は引き上げさせよう」

こんどはアンティノオスが発言。
「こうなったからには、テレマコスはここで殺してしまおう。頭も切れるやつだから、集会場で領民を集める前にな。領民はわしらに好意を持っておらぬ」

ペネロペイアに一番気に入られていたアンピノモスが、それに反対します。
「私は、テレマコスを殺すことには賛成できぬ。なぜなら、王の一族を亡き者にしようとするのは恐ろしいことだ。神のご意志を聞こうではないか。私は、どちらにせよ、それに従う」

彼の意見がもっともだと、他の求婚者たちはも同意しました。

ペネロペイア、求婚者に訴える

テレマコス暗殺のことを耳にしていたペネロペイアは意を決し、アンティノオスに訴えます。
「アンティノオスよ、そなたは思慮も弁舌も優れていると評判だ。しかし、わたしはそうは思わぬ。そなたは乱心者だ。なぜ、テレマコスを殺そうとするのか。

そなたの父上が海賊に加担し、テスプロトイ国に害を企てた時、その国の領民が憤慨し、そなたの父上を討って、その財産を食い潰そうとした。それを止めたのが、わが夫オデュッセウスです。それなのに、我が家の財産を食いつぶし、私に求婚し、息子まで殺そうとする、もう止めてください」

エウリュマコスがそれに答えます。
「賢明なペネロペイアよ、安心なさるがよい。テレマコスに手をかけるものは、今もこれからも誰一人おりません。そのような者は、我らの槍で血を流すことになりましょう。ただ、神が望む死は、免れる術はありませんが……」
こう話した当人が、一番テレマコスを亡き者にしようとしていたのです。

その頃、豚飼いエウマイオスが、牧場に帰ってきました。
「ヘルメスの丘を通っていた時、快速の船が一艘、入江に入りました。見ていると、槍と盾を持った者どもが降りてきました。きっと、テレマコス様の刺客でしょう」