〈グラウコスとスキュラ〉
スキュラのギリシャ神話を紹介します。
乙女であったスキュラと海神に変わったグラウコス、そしてキルケーのグラウコスへの愛と嫉妬が入り混じった物語は、結果として怪物スキュラの誕生に至ります。
『オデュッセイア』では、海の難所として「スキュラとカリブディスの狭間」が登場します。スキュラはオデュッセウスの船員6人を食べてしまいます。
ギリシャ神話のスキュラは代表的な怪物で、様々な神話に登場します。
「水が恋しい!水の中に入りたい」
ある日、川の中にある島の草の上に魚を並べて、それを分けていました。すると、今までぐったりしていた魚が、生き返ったかのようにピンピン飛びはね、川の中に飛び込んでしまいました。
「この草に何か秘密があるのだろうか?」 グラウコスは草を引き抜くと、それをムシャムシャ食べてみました。すると、髪と背中はみずみずしい青色になり、腰から下は魚になってしまいました。
「あぁ、水が恋しい!水の中に入りたい」 なんと、グラウコスは人魚のような神に変身してしまったのです。川や海の神々も彼を受け入れました。海の神オケアノスとその妻テテュスは、グラウコスから残っていた人間臭さもすべて取り除いてやりました。
乙女のスキュラ
スキュラは天気の良い日に、浜辺の入り江に来て水に入ったり、岩場の影で涼んだりしていました。グラウコスはそんな彼女に恋をしました。
ある日、グラウコスは近づいて言いました。 「お嬢さん、私は怪獣でもなければ、怪物でもありません。こう見えても、ポセイドンの息子トリトンよりも上位の神なのです。そして...」
グラウコスが話し終わる前に、スキュラは恐れて逃げ出してしまいました。
グラウコスは苦悩しました。 「そうだ、あのキルケに相談してみよう」 キルケは『オデュッセイア』にも登場する魔女です。グラウコスは彼女に恋の薬草でも作ってもらおうと思ったのです。
魔女キルケの告白
「スキュラの愛を得たい、どうか彼女が私を愛するように薬を作ってほしい」
グラウコスに相談されたキルケは、とまどいながらも彼に告白しました。「あなたは素晴らしい神です。だから、そんな逃げるような乙女はやめて、あなたを愛してくれる女性に目を向けなさい。あなたほどの神ならば、どんな女性も恋に落ちてしまいますよ。
私だって……実は、あなたを慕っています。いろんな薬草を知っているからと言って、この私の恋心を鎮めることはできません」
グラウコスは答えました。「海の底に木が生えたり、海の藻が山に生えたりしても、私の愛は変わりません。この愛は、スキュラだけのものです」
怪物スキュラの誕生
キルケは腹立たしくなりましたが、恋するグラウコスには何もできませんでした。その怒りは、スキュラに向けられました。スキュラが行く入江に毒薬をまき、不気味な呪文を8回唱えました。
スキュラは何も知らず、いつものように入江に来ると、水の中に入りました。すると、彼女の腰の周りに凶暴な犬が6頭現れ、口を開けて彼女をおびえさせました。
彼女は逃げましたが、犬たちも同じ速さで彼女を追いかけてきました。そして、逃げているうちに、スキュラは悲しい現実に気づきました。
「あぁ、なんということでしょう。この犬たちは私の体の一部なんだわ」とスキュラは、もう動けなくなりました。また、心も怪物のように邪悪に変わり果てていきました。
こうして、怪物スキュラが誕生しました。そして、近くに来た船を見つけると、6頭の犬が船員6人を捕まえて食べてしまいました。後にここを通ったオデュッセウスの子分も同様の運命にあいました。
その後、怪物スキュラは岩に変わり、人を襲うこともなくなりました。しかし、今でも船乗りたちはこの岩を恐れています。
一方、グラウコスはキルケの愛を一時受け入れましたが、人間を怪物に変え虐待するキルケに愛想を尽かして離れていきました。
まとめ
乙女スキュラは天気の良い日に浜辺の入り江にやってきて、水浴びをしたり、岩陰で涼んだりしていました。そんな彼女に、グラウコスが恋をしました。
しかし、グラウコスを慕っていた魔女キルケは嫉妬し、スキュラに毒薬を与えました。すると、スキュラの腰周りに凶暴な6頭の犬が現れました。こうして、絶望したスキュラは、地中海でも有名な怪物スキュラに変身しました。
怪物スキュラは、『オデュッセイア』でも海の難所として「スキュラとカリブディスの狭間」として登場します。
→魔女キルケに豚にされるオデュッセウスの部下[第10歌 前編]
キーツ作『エンディミオン』
キルケはスキュラを溺死させました。それを知ったグラウコスはキルケから離れましたが、彼女に老人にされてしまいます。そして、彼はキルケに殺されたスキュラと人々の死体を1000年間拾い集めながら暮らします。後に眠れる若者、エンディミオンがスキュラや人々を生き返らせ、グラウコスも若き姿に戻されました。
〈スキュラ〉 出典