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オデュッセウスとペネロペイアプリマティッチオ〈オデュッセウスとペネロペイア〉

まだ、心も体もついてきてないのよ

20年ぶりの夫との床入り(新婚ではありませんが)。えっ、私の顔が嬉しそうじゃないって! そうでしょうね。だって20年、しかも後半の10年間は何の連絡もなく、消息も分からなかった夫ですよ。

「もう、オデュッセウスは死んだのよ」と言う人々が多くいました。正直、わたしもそう思いはじめていました。それが、帰ってくるなんて......まだ、心も体もついてきてないのよ。

オデュッセウスの寝物語(言い訳)

聞いたら、あなただって呆れると思うわ。口達者な夫ですもの! 何も考えなくても、いくらでも口から出まかせが出てくる。

トロイア陥落時、神をうやまわない小アイアスが不祥事を起こした。それは、女神アテナ像にすがりついていたトロイアの姫カッサンドラを強姦したらしいの。それを怒った女神がギリシャ軍をすんなり帰れなくした。

これは、どうも本当にあったことみたい。小アイアスの船は難破し、彼がしがみついていた岩を、海神ポセイドンが三叉の矛で砕いたと聞いたことがある。小アイアスは沈んでいき、死んだといいます。

でも、その後からオデュッセウスの奇想天外な話が始まったの。

「巨人ライストリュゴネス族には、半分の船と家来を海に沈められた。そしてヤバかったのが、一つ目巨人の島。海神ポセイドンの息子ポリュペモスの洞窟で、部下が無残にも食われ、わしも危ないところだった。

でもな、わしの知略であいつの目を潰してやった。これが、ポセイドンの怒りを買い、帰国の邪魔をされたというわけだ。

冥界にまで、予言者テイレシアスの助言を求めに行ったんだぞ。あのアガメムノン、妻と間男に殺された大王が『オデュッセウスよ、そなたの妻は貞淑で、本当に羨ましい!』と嘆いていたよ。

悲しかったのは、母上アンティクレイアと会ったこと。冥界で会ったということは、死んでしまったことだからな」

そして、魔女キルケ、仙女カリュプソ、女神アテナ、ナウシカア姫と、女が出てくる出てくる……

「魔女キルケには数年とらわれていた。仙女カリュプソは「夫になれば、不死の神にする」と約束までしてくれた。しかし、ペネロペイアよ、『妻が待っているので、早くイタケに帰りたい』と、きっぱり断ったのだ。

仙女カリュプソの島から出発した時は、やっとこれで帰れると思ったんだがな。ポセイドンの怒りで、船は木っ端微塵。かろうじて、わしだけパイエケス国の海岸に漂着。女神アテナの計らいで、ナウシカア姫に助けられ、やっと彼らの船で帰国できたんだ……」

夫オデュッセウスの女遊びの10年間

魔女キルケや仙女カリュプソは、魅惑的な女性に違いありません。また、女神アテナだって貴族の女、ナウシカア姫は乙女ね。10年間、たくさんの女とよろしくやっていたに違いないの。

困るのは、きっと子供もいること。いずれ「わたしは、オデュッセウスの息子です、娘です。財産分与をお願いします」と何人出てくるやら、わかったものじゃない。

息子テレマコスのために、財産をしっかり確保しておかなくては……。ああ、だんだん、イライラしてきた。

ところで、この海(地中海)は荒れることもありますが、比較的穏やかな日々が多いのですよ。帰ろうと思えば、10年間のたった1ヶ月でも努力すれば帰れるはずでしょ。

一緒にトロイアに出かけた家来の誰一人帰ってきていないので、夫の話しかありません。嘘かどうか確認するすべがない。

たとえ、家来が生きて帰ってきたとしても、彼も楽しんだのに違いありませんから、領主オデュッセウスの言うことに追従するだけしょ。真実なんて、誰にもわからない。

ペネロペイアの決断

オデュッセウスが求婚者達を倒すモロー〈オデュッセウスが求婚者達を倒す〉

それに驚いたのは、帰ってきたと思ったら、無法者の求婚者を一人残さず、殺してしまったこと。

正直、再婚してもいいかなという殿御もいました。皆殺しにすることはないのに、付き人を含めると100人以上にもなりますよ。広間は血だらけ、やっと掃除が終わったところ。

この後の床入りだもの。とても、そんな気分になれないでしょ。でも、男って人を殺すとかえって高ぶるのよね。おかげで、わたし、もうクタクタ。20年間も処女でしたから、その部分がヒリヒリして、あら恥ずかしい……

まだまだ、無法者の求婚者の一族との解決もありますし、苦労も絶えないわ。世間では〈賢明な淑女ペネロペイア〉って言われていますが、そんな評判はもうたくさん。これからは、自分のために、自由に生きてみたい。

「おやすみ、オデュッセウス。口は災いの元ですよ」

闇にまぎれて旅立つペネロペイア、自分だけの明るい夜明けに向かって。