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パトロクロスダヴィッド〈パトロクロス〉

一人残されたオデュッセウス

オデュッセウスはトロイア勢に囲まれていましたが、それでも敢然と闘い続けています。すると、ソコスの槍がオデュッセウスの脇腹の肉をそぎ落としました。アテナが槍をそらさなければ、彼は死んでいたでしょう。

オデュッセウスは、すごい形相でソコスに言い放ちます。
「哀れな男よ、今日この日今ここで、お主には黒い死がやってくる」
その言葉に恐れをなしたソコス。いきなり背を向けて逃げ出しました。すかさず、オデュッセウスは、槍でソコスの背後から胸を貫いてしまいました。

『このまま囲まれていては、いずれ撃たれる』
そう思ったオデュッセウスは、人間の力がおよぶ限りの大声を三度あげて助けを呼びました。

その声を聞いたメネラオス。
「アイアスよ、オデュッセウスの声が聞こえた。どうやら敵に包囲されているらしい。助けに行くぞ」
二人はすぐにオデュッセウスの包囲網に近づくと、トロイア勢をなぎ倒していきます。

ギリシャの軍医マカオン、傷つく

その頃、スカマンドロス河の堤では、ヘクトルとパリス、老ネストルとイドメネウスが戦っていました。

パリスの矢はアスクレピオスの子で軍医マカオンの右肩にあたり、イドメネウスは叫びました。
「ネストルよ、マカオンを車に乗せ、急ぎ船陣にむかってくれ。軍医は大切だ」

大アイアスも傷つく

ヘクトルの御者はオデュッセウスの方を見て、
「ヘクトルよ、あそこで両軍が入り乱れている。あのアイアスがいるぞ。さあ、われらもそこへ向かおう」
ヘクトルは進みましたが、一騎打ちで敗北したアイアスとの戦いはさけたいところ。

ゼウスはこれに気付くと、アイアスの胸に恐怖の念をおくりました。彼は心ならずも退きはじめます。それでも、退きつつも何度も振り返りトロイア軍と戦っています。

エウリュピュロスはアイアスを助けようと近づきましたが、彼の腿をパリスの矢が貫きました。かれは大声で叫びました。
「だれか、引き返してアイアスを弓矢から守ってくれ」

いまや、戦いは混沌としています。

アキレウスは遠くから老ネレウスが傷ついたマカオンを運ぶのを見ていて、
「パトロクロスよ、今こそギリシャ勢は私の足元に跪いて、懇願してくるに違いない。もはや、かれらの手には負えぬ事態だ。しかし、その前にネストルが運んでいたのはマカオンであるか、確認してきてくれ」

パトロクロスは、アキレウスの言葉に従いました。

老ネレウス、パトロクロスに父の言葉を思い出させる

老ネレウスは陣屋に戻ると、汗を流し、酒と食べ物でくつろいでいました。そこへパトロクロスが戸口に現れました。彼はパトロクロスの手をとり招き入れ、座をすすめます。
「いや、座っている訳にはいかぬ。傷ついた者がマカオンか、確かめてこいと癇癪持ちの主人に言われたからな」

「傷付いた者は、アガメムノン、ディオメデス、オデュッセウス、アイアスと大勢いる。なのに、なぜ、アキレウスがマカオンだけを気遣っているのか、わしにはわからぬ。アキレウスは武勇を自分のためにのみ使おうとしている。自軍が壊滅した後では、必ず後悔することになるぞ。

パトロクロスよ、おぬしがこの戦いに参加する時、父メイノティウスはこう言いつけたのではなかったか
『家柄ではアキレウスが上だが、年齢ではそなたが上だ。アキレウスの力はそなたを遥かに凌ぐが、そなたは理にかなった話をアキレウスに聞かせて忠告し、間違いのないよう導いてやれ』

そなたは、それを忘れている。今でも遅くはない。母テティスか神のお告げでアキレウスが動かぬならば、パトロクロスよ、おぬしがアキレウスのミュルミドネス軍を率いて出陣すれば良い。

その時、アキレウスの武具をかりれば、ギリシャ軍は奮いたち、トロイア軍はひるむ。一時でもいいのだ。今は一息つくことが大事なのだ」

パトロクロスの迷い

パトロクロスはアキレウスの元に帰える途中、腿に矢を受け血を流して歩いているエウリュピュロスに出あいました。
「エウリュピュロスよ、言ってくれ。ギリシャ勢はヘクトルを抑えられるか、それとも、彼の槍に撃たれるほかないのか」

「パトロクロスよ、もはや名だたる武将はみな傷ついている。トロイア勢の気勢は上がるばかりだ。このままでは……」

パトロクロスは、アキレウスから教わった薬でエウリュピュロスの介護をしました。この薬は、ケンタウロス族の賢者ケイロンからアキレウスに伝授された薬です。ケイロンは、アキレウスの師でした。

老ネストルとエウリュピュロスの言葉に、パトロクロスの胸はざわめき始めていました。