ルーベンス〈アキレウスの死〉
アキレウスの右足に矢が刺さっています。
ポセイドン、子への愛情から怒る
オデュッセウスが故郷イタケヘなかなか帰れなかったのはポセイドンの怒りからです。ポセイドンは息子キュプロクスの目を潰されたことを最後まで憎みました。女神アテナが何かにつけオデュッセウスに手助けするのもずっと毛嫌いしていました。
しかし、無類の子煩悩であったとも言えるポセイドン。
話は前後しますが、トロイア戦争で息子キュクノスを殺されたポセイドンは、アキレウスにずっと怒りを覚えていました。しかし、ゼウスさえ息子のサルペドンをアキレウスに殺されたからには、表立ってゼウスに文句は言えません。
アポロンをそそのかすポセイドン
へクトルがアキレウスに打たれた後、もはやアキレウスに立ち向かえる武将はトロイアにはいません。
今も目の前で、アキレウスはトロイアの兵士たちをなぎ倒しています。ポセイドンは歯ぎしりするくらい苛立っています。子のキュクノスが死んで、はや9年間が経っていたというのにです。
「ゼウスの子の中で、私にとって一番可愛いのはアポロンよ、君だ。かつて、ラオメドン王の時代、このトロイアの城壁を一緒に築いてくれたのも君だ。そのトロイアの城壁が、今崩れ落ちようとしている。悲しくはないかね。
ヘクトルはこの城壁の周りを戦車につながれ、アキレウスに無残にも引きずられていた。あの、残虐な男は、今と問いあの城壁さえも壊そうとしている。
アキレウスが私の領域の海に来さえすれば、この三叉の鉾の威力を思い知らせてやることができるのだが。あいつと相まみえることは、許されていない。そこで、君のその見えない矢で不意をついてはくれないか、遠矢のアポロンよ」
アポロンの暗躍
もともとアポロンはトロイア側に加担していたので、叔父であるポセイドンの言葉を承諾しました。
アポロンは雲に包まれトロイアの陣にやってくると、ヘクトルの弟、この戦争の原因を作ったパリスの姿を見つけました。パリスは勝つ気力も失せていたかのように、ギリシャの雑兵にただ矢を放っているだけでした。
アポロンは神の姿を表すと、パリスに話しかけました。
「どうして、そんな意味もない雑兵に矢を放っている。矢の無駄遣いもいいところだ。身内のためにも、矢の標的はアキレウスだ。あいつに殺された多くの兄弟の仇を今こそ打て」
そう言うアポロンの指先は、まっすぐスカイア門の前で戦っているアキレウスに向けられていました。
アキレウスの死
こうして、パリスの矢はアポロンの誘導の元、アキレウスの腱を射抜きました。
かつて、アキレウスが生まれた時、母テティスは我が子を不死身にしようと、子のかかとをつかんで冥府の川スチュクスに浸けました。悲しいかな、そのつかんでいたアキレウスの腱は川の水に浸ることはなかったのです。
失意のどん底にあったトロイア王プリアモスも、アキレウスの死を見た時は喜んだに違いありません。そして、ポセイドンも胸をなでおろしたことでしょう。
映画『トロイ』のパリス(オーランド・ブルーム)