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カッサンドラ〈カッサンドラ〉

アガメムノンの妻であるクリュタイムネストラの前に連れてこられたカッサンドラ。彼女は沈黙していましたが、アポロン像を見つけると、これから起こる出来事を狂気の言葉で語ります。その中には、カッサンドラ自身も殺されること、やがて訪れる母親殺しのことも語られています。

オレステイア三部作 第1作
アイスキュロス作『アガメムノン』
コロス(合唱隊)=アルゴス市の長老たち

コロスとは?
ギリシャ悲劇における合唱隊で、物語の補足説明や感情の表現を担当します。物語の背景や登場人物の心情を伝え、合唱やダンスを通じて観客に物語の重要な要素を伝えます。

奴隷になったトロイア王妃カッサンドラ

[夜更けのアガメムノンの宮殿前]

クリュタイムネストラ
(カッサンドラに向かって)お前もその車から出て中へお入りなさい。おいで。あのヘラクレスだって、一時奴隷の身を耐え忍んだという話だもの。
(カッサンドラ、沈黙したままじっとしている)
コロス
奥方様はあなたに向かって話しているのですよ、聞くつもりはありませんか。
クリュタイムネストラ
燕のように、異国の言葉を身につけているわけではないが、しっかりと立場を教えてやるつもりだ。
コロス
さあ、ついていきなさい。奴隷としては優しい扱いだから。
クリュタイムネストラ
王宮の前で、ぐずぐずしている暇はない。中では、羊が生け贄の火にかけられるよう、待ち構えている。私の言葉が理解できないなら、手振りでも理解できるでしょうかね。
コロス
この娘には、通訳が必要そうですね。
クリュタイムネストラ
本当に、気が変だわね。

(クリュタイムネストラ退場)

アポロン像を見たカッサンドラは恐怖で叫ぶ!

コロス
気の毒な娘さん、車を降りて新たな運命に身を任せたらよろしいでしょう。
(カッサンドラが車駕を降りて、門のアポロン像を見つけると恐怖の表情で叫ぶ)
カッサンドラ
おお、アポロン、アポロン。
コロス
なぜそう悲しげにアポロン神を呼びかけるのですか。
カッサンドラ
アポロン、アポロン、私を二度も滅ぼすのですか!
コロス
わが身の不幸を予言するというのか。まだその聖なる力は残っているようだ。
カッサンドラ
ああ、アポロン、どこへ、私を連れてこられたのか。なんという屋敷へ。
コロス
ここは、アトレウス家の王宮だ。

※カッサンドラに恋したアポロンは彼女に予言の力を授けました。その瞬間、アポロンの心変わりを予知したカッサンドラは彼の求愛を拒絶しました。怒ったアポロンは、その予言が誰にも信じられないようにしました。その結果、カッサンドラの予言を信じなかったトロイアの人々とその国は滅びました。これが一度目の出来事です。

カッサンドラ

〈カッサンドラ〉

カッサンドラの不吉な予言

カッサンドラ
ああ、神に憎まれた家。身内を殺し、首を切り、人間を屠り殺す家。
コロス
どうやらこの女は、昔のことまでわかっているようだ。
カッサンドラ
だって、ほら、殺されるので泣き叫んでいる赤ん坊たち。そのあぶられた肉切れを父親に食べさせる。
コロス
お前の占いの評判は聞いているが、そこまで見えるというのか。

※アガメムノンの父であるアトレウスは、弟のティエステスとの争いを表面上和解します。しかしその後、アトレウスはティエステスの子供二人を殺してその肉を父親の食卓に供しました。そして、食べ終わった後にこの事実をティエステスに告げました。この劇に登場するアイギストスは、もう一人のティエステスの子です。

カッサンドラ
まあ、なんてことを。この館の中で途方もない禍いを企んでいるのか!
コロス
今の予言は、全く理解できない。
カッサンドラ
まあ、ひどい女よ、閨をともにする夫を沐浴で清めてから……その先は言えない。ああ、生まれついての私の不運、自分の不幸までも見えてしまった。
コロス
どうやら、これは不吉な兆しのようだ。
カッサンドラ
それでも、私たちの仇を討つ他の人がやってくるでしょう。母親を殺すことになる者、父親の報復をする者が。私の願いは、一撃で終わらせられること。もがかずに楽に死ねますように。
コロス
ああ、かわいそうな、哀れなのはお前の死の予言だ。

(カッサンドラ、王宮の中へ入る)

アガメムノン③ 妻と情夫アイギストスに殺害される