〈二匹のヘビを打つテイレシアス〉
ゼウスとヘラ、男女の性について言い争う
ネクタルで酔いのまわったゼウスは、ヘラに戯れて言いました。
「性における女の喜びは、男よりはるかに大きいのだ。ヘラは幸せ者だな」
「そんなことは断じてありません。そもそも、男が浮気するのは性の喜びが女より大きいからです」
そう反発したのは、ゼウスの妃ヘラ。
「ならば、テイレシアスに聞いてみよう。彼なら、どちらの喜びも知っているからな」
テイレシアスが男から女へ、そして男になった理由
青年テイレシアスはキタイロンの山中を歩いていると、交尾している二匹のヘビに出くわしました。彼は若かったこともあり、そのヘビを杖で打ちすけました。すると、なんとしたことでしょうか。彼は、女になってしまったのです。
その後、テイレシアスは女として、7年間暮らしました。その間に、女の喜びを知ったのです。
そして8年後、またキタイロンの山中に行くと、7年前と同じように交尾した二匹のヘビに出くわしました。
「これは、男に戻れるかもしれぬ」
テイレシアスは、再び二匹のヘビを杖で打ったのです。思惑どうり、テイレシアスは男に戻りました。
喜びは、男1:女9、盲目と予言の力
そんなテイレシアスを、オリュンポスに呼び、ゼウスとヘラは彼に問いました。
「テイレシアスよ、性の喜びは男女ではどちらが上か?」
「性の喜びは、圧倒的に女が上です。男の性の喜びよりも9倍もあります」
「どうだ、ヘラよ、わしの言った通りであろう」
その時、ヘラは黙っていましたが、後で怒りがふつふつと湧いてきました。
そして、ヘラの怒りは、テイレシアスを盲目にしてしまったのです。盲目にされたテイレシアスを哀れんだゼウスは、彼に予言の力と長寿を与えました。
ナルキッソスへの予言
河神ケピソスとニンフのレイリオペの間に生まれたのが、美少年ナルキッソス。母はあまりに美しく可愛いこの子の将来を、予言の名声があるテイレシアスに尋ねました。
「テイレシアス様、ナルキッソスは老年まで生きられるでしょうか?」
テイレシアスは、答えました。
「うむ、ナルキッソスが自分自身を知らなければな(自分自身に恋しなければな)」
17歳になった美少年ナルキッソス。おしゃべりエコーは彼に夢中になりました。
しかし、ナルキッソスは、エコーの恋に応えることはありません。彼は水面に映った自分に恋しやつれて、やがて死んでスイセンになってしまいました。
こうして、テイレシアスの名声は高まっていくのです。
また、スフィンクスの謎を解いたオイディプス王を諌めたのもテイレシアスでした。彼はテーバイ市の予言者として、永きにわたり名声を博してきたのです。