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アラクネ、クモになった乙女アラクネ、クモになった乙女

アラクネは貧しい染め物師の父コロポンの娘で、母親は早く亡くなっています。

しかし、アラクネの名は故郷リュディアの小さな町ヒュパイパでは有名でした。それは、彼女が勤勉であり、織物が得意だったからです。

また、作業する姿も美しいものでした。森や泉のニンフたちが、いつも見に来ていたほどです。

アラクネのおごり

アラクネの織物の技は、女神アテナから教えられているのではないかと言われていました。しかし、彼女は腹を立ててこう言っていました。
「わたしの技はアテナなんかに教わったものではありません。アテナはわたしと腕比べをすればいいんだわ。もし、わたしが負けたら、どんな罰だって受けますよ!」

女神アテナとアラクネ老婆に身を変えたアテナとアラクネ

これを聞いたアテナは怒り、老婆に身を変え、アラクネに忠告しに行きました。
「年寄りの言うことを聞きなさい。勝負は同じ人間同士でするもの。決して、女神さまと争ってはなりません。そして、前に言ったことを女神さまに赦してもらうようお願いしなさい。女神さまは慈悲深いお方だから、きっと赦してくださいますよ」

アラクネは織っていた手を止めると、キッと老婆をにらんで言いました。
「おばあさん、そんな忠告なんて、他の人にして。わたしは一歩だって引かないし、あんな女神なんかちっとも怖くないんだから。今すぐ、勝負したいものだわ。でも、なんだって、アテネは自分でここに来て、わたしと勝負しないんだろう?」

こうなっては、女神も堪忍袋の尾を切らします。
「女神は、今ここにいます」
アテナはこう言うと、神の姿を現しました。その場にいたニンフたちやリュディアの女たちは敬服して、女神の足元にひれ伏しました。

しかし、アラクネは恐れず、反抗的に女神をにらみつけます。一瞬、顔は赤くなりましたが、その後青ざめていました。

アテナとアラクネ

アラクネとアテナの織物対決

アテナの織物は、アテナイ市の所有をめぐって海神ポセイドンと争った時のものでした。ゼウスを中心にしたオリュンポスの十二神が控えている前での争いです。

ポセイドンは巨大な三叉の矛で大地を突くと、海水が吹き出し荒々しい馬を出現させます。一方、アテナ自身は兜をかぶり、メドゥーサの首を飾ったアイギスの盾を持った立ち姿でした。手にした槍で大地を突くと、オリーブの木が芽を出します。

四隅には神々の復讐によって、悲惨な結末を遂げた人間の驕慢を描いていました。

自らを大神ゼウスと妃ヘラと名乗ったため、山に変えられたトラキア王とその妻ロドペ。ヘラに打ち負かされてコウノオトリになり、自分の子と戦わなければならなかったピュグマイオス族の母親。第三の角には、ラオメドンの美しい娘アンティゴネ。彼女は美貌と美しい巻き髪をヘラと競い、髪を蛇に変えられ、その蛇に噛まれて苦しむ絵柄でした。最後に、娘たちの運命を嘆くキュニラス。娘たちはその驕慢より、ヘラの神殿の代理石の石段に変えられます。キュニラスは石段に伏し、大理石にさめざめと涙を流しています。

一方のアラクネの織物は神々を、特にゼウスを嘲笑しようとした大胆な意図でした。雄牛になったゼウスがエウロペを誘拐し、白鳥になったゼウスをレダが抱きしめ、黄金の雨となったゼウスが閉じ込められたダナエに降り注ぎます。この他にも同じようなシーンで、彼女は神々への不遜な心と不敬の念を強く表現していました。

アテナさえも、アラクネの織物の技には感嘆せずにはいられませんでした。

しかし、女神はこうした神々への侮辱には憤りを感じました。手にした梭(織機の用具)で、アラクネの織物をずたずたに裂いてしまいます。

それから、アラクネの額に手を当て、彼女にその思い上がりを悟らせようとしました。だが、アラクネは反省することもなく、我慢できずに首を吊って死んでしまいました。

女神アテナの怒りアラクネ、女神アテナの怒りに触れる!

アラクネ、クモになる!

アラクネを憐れに思ったアテナは、首を吊った紐に手を触れ、言いました。
「不遜なる女よ。命だけは助けてやろう。このことを忘れないように、子孫代々ぶら下がり続け、罰せられるがよい!」

女神はそう言うと、アラクネの身体にトリカブトの液をかけました。すると、髪は抜け、鼻もなくなり、身体は縮んで頭は小さくなり、指は胴体にくっつくと細長く伸びました。クモになったのです。それ以来、クモは糸を出してはぶら下がり、糸を紡いでは巣を作り続けています。

ダンテはアラクネの魂を見る