1話5分で読めるギリシャ神話

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第十八歌 前編:アキレウスの嘆きと母テティス

パトロクロスの死をアキレウスは以前から知っていました。また、ヘクトルの死も、自分の死さえも。それでも、実際に友の死が現実になると、嘆き悲しみます。母テティスの慰めもあり、いよいよアキレウスが出陣の決意を固めます。
母テティスは、ヘクトルに奪われた武具の代わりに新たなアキレウスの武具を作ってもらうため、オリュンポスのヘパイストスの館に向かいます。

パトロクロスの死を嘆くアキレウス
ギャビン・ハミルトン〈パトロクロスの死を嘆くアキレウス〉

アンティロコスの知らせ

アキレウスは、遠くから戦場を眺めていた。
「なんたることか。わが軍は船陣目指して敗走している。かつて母上が言った不吉な予感を思い出す。『私がまだ生きているうちに、ミュルミドネス第一の勇者が死ぬ』ということであった。パトロクロスは、すでに死んだのか」

そこへ、アンティロコスがやってきた。
「アキレウスよ、辛いことだが、パトロクロスが討ち死にした。武具はヘクトルに奪われ、遺体をめぐって激しい戦いが続いている」
予感していた、また神の決定は覆らないとわかっていても、実際に死んだと告げられたアキレウスは両の手で黒ずんだ灰を頭や体にかけ、地に横たわり嘆いた。見ていたアンティロコスは、アキレウスが自害するかと心配になった。

心配したのはアンティロコスだけではなかった。アキレウスの嘆きの声を聞いて、海の洞窟の母テティスも悲しみの声をあげた。女神の周りには、海のニンフ・ネレイデスが集まってきた。
「どんな悲しいことがあの子に起こったのか、わたしは確かめに行きます。たとえ、何の役にも立たなくても」

母テティス、アキレウスを慰める。

母テティスとネレイデスは洞窟から出発すると、海は裂けて道が開けた。やがてトロイアの地に着くと、母はアキレウスの傍に立ちわが子の頭を抱えて
「わが子よ、どうして泣いておいでか。ゼウスはそなたの願いを叶えて、ギリシャ軍はみな戦いにそなたがいないのを悔いている。現に今敗走しているではないか」
「しかし、母上、パトロクロスが死んだ今、それを喜ぶことができません。ヘクトルがその報いを受けぬかぎり、生きている気になりません。たとえ私が死ぬ運命であろうと」

母テティス、オリュンポスへ。

「わが子よ、辛いことですが、そなたは長く生きられまい。ヘクトルが死ねば、その後すぐにそなたの死が待っているのですから」
「かくなる上は、最愛の友を討ったヘクトルを求めて出陣いたします。止めても、お言葉には従いません」
「わかっています。しかし、わたしがここへ戻ってくるまでは、戦場に出てはなりません。明朝、ヘパイストスの見事な武具を携えてきます」
そう言うと、母テティスはアキレウスに背を向けて立ち去った。ネレイデスには海の洞窟に戻り、老ネレウスに一部始終話すよう伝言させ、自らはオリュンポスに向かった。

ヘレは決断し、虹の神イリスを遣わす。

その頃、ヘクトルとトロイア勢は三たびパトロクロスの両足を掴み引いていこうとし、両アイアスは三たび彼らを突き放していた。だが、このままだといずれ遺体はトロイア勢のものとなろう。オリュンポスから見ていたヘレは決断し、アキレウスの元へ虹の神イリスを遣わした。

「ゼウスの妃ヘレからの伝言です。アキレウスよ、パトロクロスの遺体を守りなさい。トロイア勢に渡れば、そなたの恥辱になります」
「イリスよ、私には武具がありません。また、母テティスがヘパイストスの武具を持って戻るまでは戦いに出てはならぬと申しました」
「承知しています。そのままの姿でいいのです。濠のふちに立って、そなたの姿をトロイア勢に見せてやるがよい。彼らは恐れおののき、ギリシャ勢は一息入れられましょう」
そう言うと、イリスは立ち去った。

アテネ、アキレウスを燃え立たせる。

アキレウスは立ち上がった。今度は女神アテネが彼の周りに黄金の雲を巡らせ、その体から火炎を燃え立たせた。頭から発する光芒は天にも達した。そして、彼が大声で叫べば、アテネも大声で叫ぶ。
その声にトロイア勢は恐怖に落ち入り、戦車を引く馬さえ恐れ退いた。さらに叫び、三たび叫ぶとトロイア勢は大混乱し、その威力は12名の勇者が自らの戦車や槍に当たって倒れたほどであった。

その隙に、ギリシャ勢はパトロクロスの遺体を担架に乗せて運びだした。
この時、ヘレは太陽神に無理を言って、早く日を暮れさせた。夜になれば、戦いは休止になるからである。

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