1話5分で読めるギリシャ神話

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第十六歌前編:パトロクロス、立つ!

「騎士パトロクロス」と、ホメロスは「騎士」をつけて彼を表現しています。それほど、パトロクロスは高潔な勇士だったのです。そんな彼を、ゼウスはアキレウスの名誉を回復するために戦場に送ります。
パトロクロスは船陣で凄まじい活躍をし、船の火を消し、トロイア勢を追い返します。心は高まり、トロイア勢を追いかけ多数の兵士を殺し、ゼウスの子サルペドンと対峙します。

アウトメドン
アンリ・ルニョー〈アウトメドンと不死の駿馬クサントスとバリオス〉

パトロクロスの義憤!

「パトロクロスよ、どうしたのだ、小娘のように涙を流して。何か私に、あるいはミュルミドネス勢に伝えたいことでもあるのか」

「どうかアキレウスよ、気を悪くしないでください。ギリシャ軍を襲った苦難は、それほど激しいものなのです。だから、今あなたが抱いている怒りなど忘れてほしい。神のお告げか、ゼウスの伝言を母神テティス様があなたに告げたのか、そのため今はじっと動かないのか。

なら、私にミュルミドネス勢を貸していただき、即刻戦場に送ってください。また、あなたの武具も貸してください。さすれば、ギリシャ勢はつかのまでも息をつけ、トロイア勢はあなたが出陣したと恐れ、引き上げるかもしれません」

アキレウスの忠告

「神のお告げでも、ゼウスの伝言を母から聞いたわけでもない。アガメムノンから正当な扱いを受けなかったから、怒っているだけだ。しかし、いつまでも怒っているわけにはいかぬ。
パトロクロスよ、そなたは私の武具をつけ、ミュルミドネス勢を率いて戦場に向かってくれ。

しかし、これから言うことはしっかり肝に銘じて、その通りにしてもらいたい。
いったん敵を船陣から駆逐したなら、すぐ引き上げてこい。調子に乗って、トロイアの城門まで追撃してはならぬ。オリュンポスの神、とりわけアポロンが介入してくる恐れがある」

パトロクロス立つ!

この頃、トロイア勢がついに船に火を放った。たちまち火炎が船を覆っていく。

アキレウスはパトロクロス言った。
「立て、パトロクロスよ。燃え盛る火が見える。船が消失すれば、我らが逃げる道がなくなってしまう。急ぎ武具をつけよ。兵は私が集める」

パトルクロスはアキレウスの武具をつけると、槍2本を手にした。しかし槍はアキレウスの槍ではなかった。アキレウスしか扱うことができない槍だからだ。そして、信頼厚いアウトメドンに馬をつなげと命じた。アウトメドンは、不死の駿馬クサントスとバリオスを戦車につないだ。控えとして名馬ペダソスを添えたが、この馬は不死ではなかった。

アキレウスは、ミュルミドネス勢に出陣の用意を命じた。

第一隊 メネスティオス(河神スぺルケイオスの子)
第二隊 エウドロス(ヘルメスの子)
第三隊 ペイサンドロス(槍の使い手)
第四隊 老ポイニクス(アキレウスの守役)
第五隊 アルキメドン
全隊は緊密に隊伍を固めた。その先頭に立つのはパトロクロスとアウトメドンだ。

アキレウスは大切にしまってあった盃を取り出すと、
「大神ゼウスよ、戦友を戦場に送ります。なにとぞ彼に栄誉を授け、その胸中に雄心を湧かせたまえ。彼が船陣から戦いと雄たけびを拭い去ったら、つつがなく、無事に帰還させてくださいますように」
ゼウスは1つの願いは聴き入れたが、もう1つは拒んだ。

パトロクロスの活躍

パトロクロスとミュルミドネス勢は、トロイア勢に襲いかかった。
「ミュルミドネス勢よ、男になれ。己の武勇のほどを思い起こすのだ。ペレウスの子アキレウスの名を輝かすために。さすれば、アガメムノンもギリシャ第一の勇士を重んじなかった己の不明に気付くであろう」

トロイア勢はアキレウスが和解して現れたと思い、みな気が動転し戦列も乱れ、どこに逃げたら良いか考えた。パトロクロスは槍をトロイア勢の真っ只中に投げると、隊長ピュライクメスの右肩に当てた。トロイア勢は恐怖に落ち入り船陣から後退し、パトロクロスは燃える火も消した。この時、ギリシャ勢の大将たちも、それぞれ敵将を討ちとっていった。

トロイア勢では唯一へクトルは戦況が不利に傾いていることに気付きながらも、アイアスと対峙し踏みとどまっていた。しかし、とうとう戦車で濠を渡ったが、濠の中に残った味方をどうすることもできない。濠を抜け出したトロイア勢は、城門に引き返していく。

ゼウスの子リュキエ王サルペドン

パトロクロスは、ヘクトルを討ちとらんと心が焦るにあせる。ヘクトルには追いつかなかったが、敵の先頭部隊を寸断すると、必死に城門に帰ろうとする多数の敵を討ちとった。
これを見ていたゼウスの子サルペドンは自軍に声を荒げて
「恥を知れ、リュキエ勢よ、どこへ逃げていく、今こそ戦わねばならぬ時なのだ。あの男には私が立ち向かう。あの男が何者か知りたい」
こう言うと、サルペドンは地に飛び降りた。パトロクロスも戦車を降りた。

これを見ていたゼウスは、
「ヘレよ、悲しいことじゃ。我が子サルペドンがパトロクロスに討ち取られる運命にあるとは」
ヘレは、無情に答える。
「所詮は死すべき人間です。命運定まった者を死から救おうとお考えなのですか。ですが、サルペドンを助けるならば、他の神々も我が子を救おうとするに違いありません。彼がパトロクロスに打たれた後、〈死〉と〈眠り〉の神に命じ、故郷リュキエの国に運ばせておやりになれば良いでしょう」
ゼウスは異を唱えず、地の雨のしずくを降らせた。

サルペドン、死す。

パトロクロスは、サルペドンの従者トラシュメロスを槍で倒す。サルペドンの投げた槍はパトロクロスには当たらず、名馬ペダソスに当たった。アキレウスの戦車の馬三頭のうち、この馬のみ死すべき運命であった。双方、もう一度槍を投げ合う。パトロクロスには当たらず、サルペドンは胸に槍を受けて倒れた。
サルペドンは息をひきとる前に、同郷のグラウコスに告げた。
「グラウコスよ、私の武具をギリシャ勢に奪われぬよう、守ってくれ」

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