1話5分で読めるギリシャ神話

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第十五歌:ゼウスの怒り、ヘクトルの再起

ゼウスは目覚めると、その神意をヘラに告げます。ヘクトルを先導するアポロンにより、ギリシャ軍は最後の瀬戸際に立たさます。ヘクトルともう一人の捨て駒パトロクロスが参戦する手はずは整いました。イリアス第十六歌は、「パトロクロスの巻」。これ以後、イリアス後半のクライマックスが始まります。

ウィキメディア:ゼウス
〈ゼウス〉ウィキメディアより

ゼウス目覚める!

ヘレの傍で下界を見たゼウスはあっけにとられた。
トロイア軍はギリシャ軍に追い立てられていた。追い立てるギリシャ軍の中にポセイドンがいることも分かった。しかも、ヘクトルは仲間の中で血を吐き、ふせっていた。

「ヘレよ、そなたは手に負えぬ女だな。ヘクトルが負傷し、トロイア軍が押されているのは、そなたの企みだな。かつて、そなたがヘラクレスを漂流させたとき、わしにオリュンポスに宙づりにされたのを忘れたのか」
ヘラは震えた。
「ステュクスの水に誓って言いますが、ポセイドンが暗躍しているのは、私のせいではありません。彼が、勝手にギリシャ勢を哀れんでのことです」

ゼウス、ヘラに言い渡す

「ヘラよ、では虹の神イリスとアポロンを呼んできてくれ。イリスはポセイドンに引き退るように言いつける使い、アポロンはヘクトルに新たに力を吹き込んでやり、ギリシャ勢を追い立て、アキレウスの船の近くで討たせるのだ。

さすれば、アキレウスはパトロクロスを立ち上がらせる。彼は我が子サルペドンを含む武将を倒した後、ヘクトルに討たれる。怒ったアキレウスが、ヘクトルを討つという運びになる。しかして、トロイア城はアテネの計略通り落ちるのだ。だから、今は誰もギリシャ軍を加勢してはならぬ」

ヘレ、オリュンポスに帰る

ヘレは、急いでオリュンポスに降りていった。神々の食卓でヘラは言い放った、軍神アレスをけしかけたのである。
「ゼウスには何を言っても無駄。自分は神々の中で一番だと思っている。みな、辛抱するしかない。現に息子アスカラポスを戦いの中で失ったアレスはつらいことであったと思う」
船陣わきの戦いでトロイアのデイポボスがイドメネウスに槍を投げた時、アスカラポスに命中したのだ。(第十三歌)

アレスは、ヘラの思う通りに動いた。
「みな、私が船陣に出向いて、倅の仇を討つのを咎めないでほしい。たとえ、ゼウスの雷に打たれるのが私の運命であっても」
そう言うと、「恐怖」と「潰走」に馬をつなげと命じ、武具をつけた。それを止めたのはアテネだった。
「アレスよ、狂ったか。身の破滅になるぞ。ゼウスの思惑を忘れたか。それに、そなたの息子ばかりではないぞ、たくさんの者が討たれているのだ」

ヘレはイリスとアポロンを館の外へ連れ出すと、ゼウスの元へ行くよう告げた。

イリス、ポセイドンの許へ。アポロン、ヘクトルを再起させる。

ゼウスは、まずイリスに命じた。
「ポセウドンに告げよ。戦いをやめて神々の許へか、聖なる海へ引き返せと申せ。従わなければ、力ずくでそうするとな」
イリスはすぐさまポセイドンのところへ行くと、ゼウスの伝言を伝えた。
「腹がたち、しゃくにさわるが今はそうしよう。だが、いずれギリシャ方を勝たせなければ、どうなるか知らぬぞ」
ポセイドンが海に帰っていくと、ギリシャ勢は落胆した。

また、ゼウスはアポロンに告げた。
「ポセイドンは、すでに海に帰った。アポロンよ、ヘクトルの許へ行き、面倒を見てやれ。ギリシャ軍を船陣まで追い立てさせるのだ。その後はわしの方で考えよう」

ヘクトルの再起

アポロンは急いで地に降り、やっと気がついたばかりのヘクトルに告げた。
「ゼウスは、このアポロンを遣わしたのだ。もう案ずることはない。私が先頭に立ち、ギリシャ軍を潰走させてやろう」

これを見ていたギリシャ軍のアンドライモンの一子トアスは
「今、なんという驚くべき奇跡を見ることか。死を免れて、ヘクトルが再び立ち上がった。神が彼を救われたのに違いない。ゼウスの神意なしでは考えられぬことだ。今はわしの意見を聞いてくれ。大部分の軍勢は船陣に引き上げさせ、一部の軍勢だけでヘクトルを止められるか試してみよう」

かくして、アイアス、テウクロス、イドメネウス、メリオネス、メゲスらが残った。
しかし、ヘクトルの軍勢の先頭にたったアポロンが、ギリシャ勢に恐怖を起こした。戦意を失ったギリシャ方は多くの武将を討ちとられ、防壁の内に敗走せざるをえなかった。

さらに、アポロンは深い濠の堤をやすやすと踏み倒して、トロイア勢のために通路を作った。彼らは、一気になだれこんだ。

ギリシャ軍、追い詰められる

ギリシャ勢は、船の側で踏みとどまるのがやっとの様であった。それぞれの兵士が神々に祈願した。老ネストルは、
「ゼウスよ、オリュンポスの神々よ、かつて無事の帰国を約束してくださったのであれば、我らに無残の日が訪れぬようお護りください」
ゼウスはその願いを聞き届け、凄まじい雷を鳴らした。

雷を聞くと、トロイア勢はさらに戦意を燃やし、ギリシャ勢に襲いかかった。

パトロクロス、アキレウスの許へ。

その頃、戦友の手当てをしていたパトロクロス。トロイア勢が防壁に迫るのに気付き
「エウリュピュロスよ、いつまでもここにいるわけにはいかぬようだ。急いでアキレウスの許へ帰って戦うよう進言する」

デウス、テウクロスの弓弦を断ち切る。

数が少ないトロイア勢と数が多いギリシャ勢の戦いは、拮抗していた。この時、ヘクトルはアイアスに向かって行った。ヘクトルの従兄弟カレトル、アイアスの従者リュコプロンが槍で討たれた。
アイアスは兄弟に叫んだ。
「テウクロスよ、アポロンから賜った弓はどこへやった」
テウクロスはアイアスのそばに駆け寄り、矢を放った。矢はトロイア兵の首を射抜き、彼はさらにヘクトルに狙いを定めた。

しかし、デウスがこれに気付かぬはずはなく、テウクロスの弓弦を断ち切った。矢はあらぬ方へ飛び、弓はテウクロスの手から落ちた。
「ああ、なんたることか。神はわしの弓を壊してしまった。今朝、弓弦は新調したばかりだというのに」
「兄弟よ、神が壊してしまわれたならば、槍で戦うしかあるまい」

ヘクトル、全盛期の日々

へクトルはこれを見ると、
「皆の者、弓の名手の放った矢が、ゼウスによってそらされたのを私は見た。神は、我らトロイアの見方だ。さあ、一団となって戦おう」
一方、アイアスは
「今こそ、我らがここで果てるか、船団を守れるか、それを決する瀬戸際である。船団に火が放たれたら、徒歩で帰国できると考えているのか。今はもう、腕力で戦うしかない。それに勝る思案も策もない」

ギリシャ勢はこの危機を逃れようとはせず、討ち死を覚悟した。一方、トロイア勢は船に火を放ってギリシャ軍を討ち果たさんと決意していた。こうして、両軍は激しく戦い続けた。

天界では、ゼウスはヘクトル一人に名を挙げさせようとしていた。それというのも、アテネはアキレウスの力を借りて、ヘクトルの最後の日を早めんとしていたからであった。

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