〈ヘラに力を貸す眠りの神ヒュプノス〉
ゼウス、ケストスをつけたヘラに欲情する
ヘラは、まずゼウスにここに来た理由を語ります。「オケアノスとテテュスに会いに行く許しを、あなたから得るためにここに来ました」
アフロディテのケストスの威力があり、ゼウスはヘラを口説きます。「会いに行くのは明日でいいだろう。今はここで愛の喜びを味わおう」
さらに、ゼウスは有頂天になり、今の高揚した気持ちをヘラに伝えます。「ペルセウスの母ダナエ、ヘラクレスの母アルクメネ、デュオニソスの母セメレやアポロンの母レトに抱いた気持ちより、また初めての時のヘラよりも、今のヘラにどうにもならぬ気持ちにさせられたのだ」
「ここで愛の契りをしたならば、ここは高所ですからオリュンポスの神々に見られてしまい、恥ずかしくて館に帰れません。何と言われることか。どこか秘めた寝所はありませんか」
「見られることなぞ案ずることはない。わしは厚い黄金の雲を周りにめぐらす」 こうして、ゼウスはヘラと交わり満足して、ヘラの思惑どおり眠りに落ちました。
ゼウスを眠らせた眠りの神ヒュプノスは、地上に降りていくとポセイドンに告げました。「ヘラが愛の交わりをした後、ゼウスには深い眠りをふりかけておいた。ポセイドンよ、今こそギリシャ軍を奮起させ、彼らに勝利の栄誉をあたえられるがよい」
ポセイドンは戦いの第一線に躍り出ると、「アキレウスがいなくても、最大の楯を輝かせ、兜をかぶり、手に槍を持ち突撃するぞ。わしは先頭に立つ」 すかさずアガメムノン、オデュッセウス、ディオメデスは傷をものともせず戦列を整えます。
ヘクトル、大アイアスに敗北する!
彼はアイアスに向かい真っ先に槍を投げます。直後、ヘクトルは味方の中に下がろうとしました。
しかし、楯で槍を防いだアイアスは大石を持ち上げ、すかさずヘクトルに投げつけました。ヘクトルは首と胸の間に大石を受けると、地に倒れ気を失ってしまいました。
ギリシャ勢は、ヘクトルを捕らえるべく多くの槍を投げつけました。しかし、アイネイアス、アゲノル、サルペドン、グラウコスらが楯をヘクトルの前に並べました。ヘクトルは助けられ、戦車まで運ばれました。
彼らは清きクサントス河まで来ると、ヘクトルを車から降ろし、水をかけました。目を開けたヘクトルは膝をついて座りましたが、黒い血を吐き、また気を失いました。
こうして、ギリシャ軍はヘクトルなきトロイア軍に襲いかかったのです。戦いは白熱し、両軍の名だたる武将が多数死んでいきました。