1話5分で読めるギリシャ神話

ギリシャ神話の神・女神・英雄のエピソードが、絵画で分かりやすい。また、ギリシャ神話はあなたの美術鑑賞に役立ちます。姉妹サイト〈1話5分で読める聖書-アートバイブル

第十八歌後編:鍛冶の神ヘパイストスの武具

いよいよアキレウスが出陣の決意を固めます。母テティスは息子アキレウスのために鍛冶の神ヘパイストスに、新しい武具を作らせにオリュンポスへ。第十九歌で母は子に神の武具を渡します。『イリアス』の有名なシーンで、たくさんの絵画になっています。
しかし、『イリアス』で描写されている楯を忠実に描いているこのシーンの絵画は、見たことがありません。小さいスペースでは、表現できないからです。ここに実際に作られた楯と図面の2つを載せておきます。

パトロクロスの死を嘆くアキレウス
〈パトロクロスの死を嘆くアキレウス〉

トロイアの集会。プリュダマスとヘクトルの主張

日が暮れると、トロイア勢は一時引き下がった。夕食の準備をし、集会をひらいた。アキレウスが出陣してきたら、どう対処するか今後の戦いの方針を決める協議だ。

まず、プリュダマスが語る。
「今は城へ帰ろう。アキレウスがいない時は、船陣を落とせると思っていた。が、出陣したからには落とすのは難しい。城門が、我らを守ってくれよう」
ヘクトルはプリュダマスを睨みつけると反論した。
「プリュダマスよ、おぬしの言葉は気に入らぬ。今はゼウスがトロイアに勝たせようとしていることは明白なんだ。明朝、船陣を攻撃する。アキレウスが立ち上がろうと、痛い目を見るだけだ」
トロイア勢は、歓呼の声をあげる。プリュダマスに賛同する者は、一人だにいなかった。アテネが彼らの思慮を奪い、彼らは正しい判断ができなかったのである。

アキレウスの嘆きと決意。

その頃、ギリシャ勢はパトロクロスの死を悼んでいた。とりわけアキレウスの悲嘆は大きく、両の手を遺体の胸の上に置いていつまも呻いていた。

「パトロクロスの父メイノティオスに勝利の分け前とともに、彼を連れて帰るといった言葉は虚しいものになってしまった。その上、この私とてここトロイアの地で果てる運命である。
かくなる上は、パトロクロスよ、そなたを亡き者にしたヘクトルの首と私の武具をここに持ち帰るまでは、そなたの葬儀は行わぬ。また、亡骸を焼く火の前で、トロイアの立派な息子12人の喉を切り裂いてやる」

そう言うと、パトロクロスの体をお湯で清めさせると、寝かして頭から足まで麻布で包み、その上から白布をかけさせた。

ゼウスはヘレに
「かくして、ヘレよ、お前の思い通り、アキレウスは立ち上がったというわけだ」
「女神の中で最も高い位にあるわたしが、そうして何かいけないことがありますか」

テティス、鍛冶の神ヘパイストスを訪ねる。

ヘパイストスの妻カリスは、テティスの訪問を夫につたえた。
「テティスが、あなたにご用があるそうです」
「わしにとって、大切な女神なのだ。かつてわしが醜さゆえに母ヘレに天から落とされた時、テティスとオケアノスの娘エウリュノメが海の洞窟にかくまってくれたのだ」

※カリスは芸術・技芸の女神です。一般的には、ヘパイストスの妻はアフロディテです。ホメロスは、へパイストスの技芸面からカリスと夫婦にしたようです。

「テティスよ、どういうご用件でおいでなさったか。どうか、ご存分にお話くだされ。わしにできる仕事なら、どんなことでもお役に立ちたい」
「ヘパイストスよ、わたしは不本意ながら、人間のペレウスの子をうみました。その子は今、トロイアの地におります。しかし、彼はここで死ぬ定めです」

テティスは、今までのいきさつを語った。

「息子のために、どうか武具を一揃い、明朝までに作ってください」
「安心なさるが良い。誰が見てもほれぼれする見事な武具を用立ててみせる。ご子息の死の運命も避けさせてあげれば良いのですが......」

鍛冶の神へパイストスの武具。

へパイストスは、まず五重の楯を作り始めた。これは5枚の層が同心円をなして重ねられ、上へ行くほど小さくなっていく円錐形のものである。(あるいは、丸い楯を中心から5つあるいはもっと細分化した放射状の楯です。最後の写真参照↓)

【第一層】
大地あり、天空あり、海がある。太陽、月、星座、プレアデス星団、ヒアデス星団も描かれ、まさに宇宙の縮図である。
【第二層】
次の層に人間の住む美しい二つの町が造られた。一つの町には婚礼と祝宴の情景。もう一つの町では二つの軍勢が町を取り囲み、町からも舞台が出陣し、その先頭に立つのは軍神アレスと女神アテネである。かくして、両軍は川の堤で剣を交え、槍を投げ合う。
【第三層】
多数の農夫が牛が使い、肥沃な休耕田をたがやす。王領の荘園では人足が麦を刈っている。また、たわわに実るぶどう園もあり、その周りには垣根を巡らせた。一本の道がぶどう園に通じて、男女が行き交っている。
【第四層】
牧場へ急ぐ牛の群れ。四人の牧夫と足の速い犬九頭が付き従う。二頭の獅子がその牛を噛み裂く。谷間には雪白く羊が草を食む広い牧場。
【第五層】
さらに、ダイダロスがアリアドネのために作ったのと同じような踊り場に花輪を頭に巻いた娘たちが踊っている。

そして、ヘパイストスは、頑丈に作られた一番外側にはとうとうと流れる大河オケアノスを描いた。

見事としか言いようがないこの楯は、ほとんどが黄金と銀と錫で作られていた。この重い楯を扱えるのはアキレウスしかいない。次に、神は次々に胸当、兜、前立、脛当全てを用意した。

テティスは、燦然と輝く武具を受け取ると、オリュンポスを下っていった。

〈アキレウスの楯と図面〉
アキレウスの楯
アキレウスの楯・図面

【イリアス】一覧へ

前のページへ 次のページへ