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パトロクロスの死を嘆くアキレウスハミルトン〈パトロクロスの死を嘆くアキレウス〉

アンティロコスの知らせ

アキレウスは、遠くから戦場を眺めて言いました。
「なんたることか。わが軍は船陣目指して敗走している。かつて母上が言った不吉な予感を思い出す。『私がまだ生きているうちに、ミュルミドネス第一の勇者が死ぬ』と。パトロクロスは、すでに死んだのか」

そこへ、アンティロコスがやってきました。
「アキレウスよ、辛いことだが、パトロクロスが討ち死にした。武具はヘクトルに奪われ、遺体をめぐって激しい戦いが続いている」

予感していた、また神の決定は覆らないとわかっていても、実際に死んだと告げられたアキレウスは両の手で黒ずんだ灰を頭や体にかけ、地に横たわり嘆きます。見ていたアンティロコスは、アキレウスが自害するのではないかと心配になったほどです。

心配したのはアンティロコスだけではありません。アキレウスの嘆きの声を聞いて、海の洞窟の母テティスも悲しみの声をあげました。女神の周りには、海のニンフ・ネレイデスが集まってきます。

「どんな悲しいことがあの子に起こったのか、わたしは確かめに行きます。たとえ、何の役にも立たなくても」

母テティス、アキレウスを慰める

テティスとネレイデスは洞窟を出発すると、海は裂けて道が開けます。やがてトロイアの地に着くと、アキレウスの傍に立ちわが子の頭を抱きかかえます。

「わが子よ、どうして泣いておいでか。ゼウスはそなたの願いをかなえて、ギリシャ軍はみな戦いにそなたがいないのを悔いている。現に今敗走しているではないか」

「しかし、母上、パトロクロスが死んだ今、それを喜ぶことはできません。ヘクトルがその報いを受けぬかぎり、生きている気になりません。たとえ私が死ぬ運命であろうと」

母テティス、オリュンポスへ

「わが子よ、辛いことですが、そなたは長く生きられまい。ヘクトルが死ねば、その後すぐにそなたの死が待っています」

「かくなる上は、最愛の友を討ったヘクトルを求めて出陣します。止めても、お言葉には従いません」

「わかっています。しかし、私がここへ戻ってくるまでは、戦場に出てはなりません。明朝、ヘパイストスの見事な武具を携えてきます」

そう言うと、オリュンポスに向かいます。ネレイデスには海の洞窟に戻り、老ネレウスに一部始終話すよう伝言させました。

ヘラの決断、虹の神イリスを遣わす

その頃、ヘクトルとトロイア勢は三度パトロクロスの両足を掴み引いていこうとしました。両アイアスも三度彼らを突き放します。

だが、このままだといずれ遺体はトロイア勢のものとなろう、オリュンポスから見ていたヘラはそう思い、アキレウスの元へ虹の神イリスを遣わしました。
「ゼウスの妃ヘラからの伝言です。アキレウスよ、パトロクロスの遺体を守りなさい。トロイア勢に渡れば、そなたの恥辱になります」

「イリスよ、私には武具がありません。また、母テティスがヘパイストスの武具を持って戻るまでは戦いに出てはならぬと申しました」

「承知しています。そのままの姿でいいのです。濠のふちに立って、そなたの姿をトロイア勢に見せてやるがよい。彼らは恐れおののき、ギリシャ勢は一息入れられましょう」

そう言うと、イリスは立ち去りました。

アテナ、アキレウスを燃え立たせる

アキレウスは立ち上がりました。今度は女神アテナが彼の周りに黄金の雲を巡らせ、その体から火炎を燃え立たせます。頭から発する光芒は天にも達し、彼が大声で叫べば、アテナも大声で叫びます。

その声にトロイア勢は恐怖に落ち入り、戦車を引く馬さえ恐れ退きました。さらに三度叫ぶとトロイア勢は大混乱し、その威力は12名の勇者が自らの戦車や槍に当たって倒れたほどです。

その隙に、ギリシャ勢はパトロクロスの遺体を担架に乗せて運びだしました。

この時、ヘラは太陽神に無理を言って、早く日を暮れさせます。夜になれば、戦いは休止になるからです。