1話5分で読めるギリシャ神話

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豚飼いのエウマイオス

哀愁のペネロペイア
ルパート・バニー〈哀愁のペネロペイア〉

〈オデュッセイア 第十四歌〉

豚飼いエウマイオスの牧場

エウマイオス自身がトゲのある灌木を上においた石で囲った牧場である。囲いの中には12の豚小屋があり、それぞれの小屋には、メス豚が50頭、外にはそれより数の少ないオス豚がいた。丸々太ったオス豚は、無法な求婚者たちの食事に供されていたからである。

じいさんに変身したボロをまとったオデュッセウスがやってくると、牧場の犬が今にも彼を食い殺そう迫ってきた。エウマイオスは作りかけの牛皮のサンダルを置いて、犬を追い払った。
「さあ、じいさん、小屋に行こう。食いたいだけ食い、飲みたいだけ飲んで話そう」

「異国の人よ、そなたの親切に対して神々がそなたの望みを叶えてくださいますように」

「じいさん、20年前、メネラオスとアトレウス家の名誉を守るため、わが殿様はトロイアに出征された。あんなヘレネのような女は、滅びればよかったのだ」
こういうと、豚飼いエウマイオスは2匹の子豚を殺し焼きはじめた。
「じいさん、こんな子豚の肉しかないが、食べてくれ。肥えた豚は無法者の求婚者が平らげる。彼らは天罰の恐ろしさも気にせず、人を憐れむ心もない。きっと、殿様の死を、神のお告げか何かで知っているに違いないのだ。屋敷にいすわっては、財産を食いつぶしている。だが、殿様の資産は大きいからなくなることはないがな」

オデュッセウスは、飲み食いしながらも〈どうやって求婚者をやっつけるか〉思案していたが、エウマイオスに問うた。
「トロイア戦争に行ったというなら、また、それほどの資産を持つ立派な人なら、わしは知っているかもしれぬ。なんという名か言ってくれ。消息に心当たりがあるかもしれぬ」

豚の放し飼い
〈イメージ〉

「じいさんよ、ここに来るものは皆もてなしを受けたいから、嘘をつくのだ。だが、奥様も若様も信じさせることはできまい。奥様ペネロペイア様はお優しいから、そんな嘘もしっかり聞いて、涙まで流される。おそらく、殿様だがな、オデュッセウス様はもう死んでいるのであろう。わしは両親の死より、殿様の死を悲しむ。たとえ、ここにおいでにならずとも、大切なご主人様なのだ」

「おぬしは、人の話を信じようとはせぬ。わしはいい加減なことを言うのではなく、誓って言うのだ。オデュッセウスは、今年中にイタケに帰って来られる。そして、無法な求婚者たちは懲らしめられるであろう」
「じいさん、おぬしの吉報に、礼などはしないし、オデュッセウス様はもう帰ってこぬであろう。もう、その話はやめにしよう。殿様の父上ラエルテスのご老体、奥方様、ご子息も、殿様が帰国されたらどんなにかうれしかろう。そのご子息テレマコス様も、どういうわけか、お父上の消息を求めて、ピュロス・スパルタへ旅立ってしまわれた。無法者の求婚者は、若様の帰路で待ち伏せして亡き者にしようとしている。どうなるか心配だが、それは脇において、じいさんよ、おぬしの名は何と言い、どこから来たのだ」

知略に富んだオデュッセウスは、作り話を語りはじめた。

「わしはクレータのカストルの妾の子。父が死んだ時、わしはわずかな財産しか貰わなかった。それでも、武力は秀でていたので、莫大な戦利品を得て、クレータの名士になっていた。やがて、トロイア出征を求められた。

トロイアで9年戦い、10年目で陥落させた。が、帰国の際、神々がギリシャ勢をちりぢりにさせてしまった。わしはクレーテに帰ったが、妻と子と過ごしたのは1ヵ月。部下と船団を率いて、エジプトに行くことになった。5日後エジプトについたから、部下を偵察に行かせた。ところが、部下たちが女子供をさらい、男たちを殺してしまった。怒った大勢のエジプト人がやってきて、みんな殺されてしまった。わしは思案をめぐらして、エジプト王にすがり、なんとか命は取りとめた。そして、7年間が経ち、財産もできた。

そこへ強欲なフェニキア人がやってきて、言葉巧みにわしを誘い出し、フェニキアに行くことになったのだ。そこで1年。今度はリビアに行くことになった。フェニキア人は、わしを売る算段だったようだ。しかし、ゼウスの雷に船は打たれ、船員はみな海に投げ出された。わしは運良く、帆柱にしがみついて、9日流されたのち、10日目にギリシャ北西部のテスプロトイ人の国に打ち上げられた。

ここで、オデュッセウスの噂を聞いたのだ。彼は公然と帰国するか、密かに帰るか、ゼウスの神意を伺うためにギリシャ西北部ドドネに行ってると、王は話された。王はまた、オデュッセウスを帰国させる準備も終わっているとも言っていた。

その前に、わしはドゥリキオンのアカストス王のもとへ送られることになったのだが、またまた強欲の船員がわしの身ぐるみを剥いて、今着ているボロをまとわせ、縄で縛りあげた。そしてここイタケにやってきた。彼らが食事を取っている間に、神が手を貸してくれたのだろう、縄が自然とほどけ、逃げ出したというわけだ」

「じいさんよ、おぬしは気の毒なお人じゃ。だが、オデュッセウス様の話は信じぬ」
「いやはや、誓言して話しても信じてもらえぬとは。おぬしは、よほど疑り深い性根をしているようだ」

その夜は、今度は肥えた豚を屠り、オデュッセウス、エウマイオスとその使用人3人で食事をし、眠りについた。