1話5分で読めるギリシャ神話

ギリシャ神話の神・女神・英雄のエピソードが、絵画で分かりやすい。また、ギリシャ神話はあなたの美術鑑賞に役立ちます。〈アートバイブル〉も、絵画でわかりやすい聖書です。

トロイア王妃ヘカベーの運命2

ポリュメストル、ポリュドロスを殺す
〈ポリュメストル、ポリュドロスを殺す〉

ポリュリュドロスの死
「娘よ、おまえに捧げられるものは、母の涙とひとつかみの異国の砂だけ。わたしは敵の生け贄のために、娘を生んだのか?わたしは何のために、生きながらえているのか?神よ、何のために、わたしを生かしておくか?
・・・
そうだ、わたしには最愛の末息子ポリュドロスがいる。さいわい、この浜辺の地、トラキアの王ポリュメストルの元ヘあずけている。
ともあれ、娘のむごい傷と血を洗ってやらねば」
ヘカベーはポリュクセナの体を抱きかかえると、老いの足を引きずりながら海岸へ行った。

「さあ、だれか水瓶を渡してちょうだい」
その時です。最後の望みポリュドロスの遺体が、母親ヘカベーの目に入った。彼の傷ついた遺体は、岸辺に打ち上げられていたのだ。ヘカベーは、声も出なかった。トロイアの女たちは、大きな叫び声をあげた。

トロイア陥落の知らせが届くと、トラキア王ポリュメストルは、残酷にもポリュドロスを剣で刺し崖からつき落としたのだ。ポリュメストルにつけた多額の持参金目当てであった。

ヘカベー、ポリュメストルを殺す
ジュセッペ・クレスピ〈ヘカベー、ポリュメストルを殺す〉ベルギー王立美術館

ヘカベーの怒り
ヘカベーは、遺体の傷を見ると、顔をあげ空を見上げた。悲しみは怒りへと変わった。今や王妃の誇りを取り戻し、彼女は報復を誓った。そのまま、ポリュメストルの館に向かっていた。

「ポリュメストル殿、隠していた黄金を息子に渡してはもらえまいか」
欲のはったトラキア王は、彼女の言葉を少しも疑いはしなかった。
「ヘカベー様、ようこそおいで下さった。今回の黄金も前に預かっている持参金も、みなご子息にお渡しいたします。ご安心くだされ。神々にかけて誓います」

目の前の恥知らずな男の言葉を聞くと、ヘカベーはにらみつけた。怒りを静めなければと思いながらも、怒りは頂点に達した。そのまま彼に躍りかかっていた。すかさず、トロイアの女たちも王妃に加勢し、唖然としたトラキア王をおさえつけた。ヘカベーは、両眼に指を突き刺すと、目の玉をくりぬいた。彼女の怒りは、それほどまでに凄まじかった。

ヘカベーの変身
トラキア王の近臣は、ヘカベーとトロイアの女たちに剣で斬りかかり、石を投げつけた。ヘカベーはうなり声を上げながらも、飛んでくる石にさえ噛み付こうとしていた。その声は、もはや人間の声ではなかった。神が、彼女を犬に変身させのだ。

ヘカベーの運命はトロイアの人々だけでなく、ギリシャの人々さえも、神々の心さえも動かした。ギリシャ勢に加担していたゼウスの妃ヘーラーさえ、「彼女は、可哀相である」と言ったという。

別説では、ヘカベーはオデュッセウスの奴隷になった後、彼に呪いをかけようとして発覚し、神が彼女を犬に変えて逃がしたともいわれている。

トロイア王妃ヘカベーの運命1

トロイア戦争後のヘレネー〉は元の夫メネラオスと幸せに暮らしていることを思うと、ヘカベーの哀れさが痛ましい。