〈飛び去るエロース〉
プシュケーのふたりの姉
しばらくして、プシュケーは両親やふたりの姉のことを思い出しました。私がこうして、幸せに暮らしていることを両親や姉に知って欲しい......
その思いがどんどん強くなり、プシュケーは声の主人にお願いしました。
「どうか、両親やお姉さんたちに会わせてください」
エロースは、しぶしぶながらプシュケーの願いを聞き入れました。
ある日、ゼフィロスがふたりの姉を、宮殿に連れてきました。ふたりはその立派な宮殿にびっくりしました。また、中に入るとその立派な家具や調度品にも感嘆しました。さらに、目に見えない召使いのもてなしにも溜め息をつきました。
『あぁ、なんで妹の方が、こんな良い暮らしをしているの?』
もちろん、声には出しませんが、ふたりの嫉妬心がムラムラしてきました。
プシュケーのふたり姉の悪意
「お前のだんな様は何をしているのかい?」
と、プシュケーに聞く姉たち。
「昼間は狩りに出ています、夕方には帰りますわ」
と、プシュケー。
「そんなはずはなかろう」との姉たちの厳しい質問に、とうとうプシュケーは夫を見ていないことを白状してしまいました。
さらに、ふたりの姉は嫌がらせの質問をします。
「神託では、怪物がお前の夫になる、と言ったではないか」
「そうだ、大蛇に違いない。お前を太らせてから、食べてしまうのだ」
「今夜、ナイフと明かりを用意して、確かめてみた方がいい」
「大蛇だったら、その首を切っておしまい!」
愛は、疑いと一緒にはいられない!
姉たちが帰った後、プシュケーは姉たちの言葉にだんだん不安になってきました。
その夜は、こっそりランプとナイフを持って寝室に入りました。夫エロースの寝息が聞こえてくると、プシュケーは手にナイフをもち、ランプを掲げて、夫を見てしまったのです。すると、起きた夫は「愛は、疑いと一緒にはいられない!」と飛び去ったのです。プシュケーは手にナイフをもち、ランプを持ち上げました。
「まぁ、なんという美しさ!」
プシュケーは夫の神々しさに動揺し、ランプの熱い油を夫の肩に落としてしまいました。
エロースはビックリして飛びおき、言い放ちます。
「愛は、疑いと一緒にはいられない!」
そして、その美しい翼を広げると、夜空に飛んでいってしまいました。
その後、プシュケーは夫を探しまわりましたが、見つかるはずもありません。ふたりの姉のところにも、相談にいきました。
ふたりは表面上は心配しましたが、心ではこう思っていたのです。
『これはチャンス! 今度は私が奥さんになれるかもしれない。そして、あの立派な宮殿に住めるかもしれない』
次の日に別々に山に登っていくと、ゼフィロスに向かい叫びました。
「私をエロース様のところに連れてって〜」
と、崖から身を投げ出しました。
しかし、ゼフィロスが現れることはありません。ふたりとも、崖から落ちて死んでしまいました。
プシュケーの3試練
「どんな、おとがめも覚悟しよう」
プシュケーは意を決して、エロースの母アフロディーテの神殿に伺うことにしました。
「何でもいたします、どうかお許しを」
プシュケーは、必死にお願いしました。
「この恥知らずな娘よ、息子はまだ傷が直らず、寝室にこもりっきりだ。誰がご主人様か、やっと分かったようだな。よし、おまえが本当に息子にふさわしいか、おまえの仕事ぶりを見てから判断しようじゃないか!」
女神アフロディーテは、勝ち誇ったように言い放ちました。
プシュケーの3試練の始まりです。
はたして、プシュケーはこの3試練を乗り越えることができるでしょうか?