ジャン=レオン・ジェローム〈ピュグマリオンとガラテア〉メトロポリタン美術館
彫刻家のピュグマリオンは、純粋すぎて女嫌い!
彫刻家のピュグマリオンはあまりにも純粋で、生身の女性の嫌なところばかりが見えてしまいます。そのため、女嫌いになってしまったのです。そして「結婚はするまい」と決意していました。
しかし、若さの情熱と欲求から、大理石で美しい乙女の像ガラテアを彫ってしまいました。その像の表情は清純で愛らしく、まるで生きているようで、今にも動き出すのではないかと思われました。
ピュグマリオンの秘めた恋
いつしか、ピュグマリオンは頬をさすったり、抱きしめたりして、この像を愛していました。耳飾り、指輪、真珠の首飾りも、この像にしてあげました。着物をきせると、その柔らかなシルエットが、ますます人間のように見えてきます。ついに、ピュグマリオンは、この像をきれいに整えたベッドに寝かせ、羽根枕にそっと頭をのせてあげました。そして今では、妻と呼ぶようになっていたのです。
キュプロス島のアフロディーテの祭日
ピュグマリオンは祭礼の務めを果たした後、祭壇の前に立ってささやきました。
「神さま、お願いです。私にお授けください、あの像に似た乙女を」。
さすがに、「あの像の乙女を」とは言えませんでした。
祭りに出席していた女神アフロディーテは、ピュグマリオンの心の内を知り、祭壇の炎を三度空高く燃え上がらせました。女神の慈しみです。
アンヌ=ルイ・ジロデ=トリオゾン〈ピュグマリオンとガラテア〉
ピグマリオン「?!」
ピュグマリオンは家に帰ると、いつものように乙女の像に接吻しました。
今夜のガラテアの唇は大理石の冷たさと違い、ほんのり温かく柔らかい感触がしました。ピュグマリオンはもう一度接吻してみました。確かに温かく柔らかです。今度は乙女の胸に手をおいてみました。その感触は柔らかく、押してみるとその分だけへこみます。嬉しさと驚きとの半信半疑で、ピュグマリオンは触り続けました。
もう、間違いありません。この像は生きているのです。
あらめてガラテアの顔をのぞくと、恥じらいで頬を赤くした人間の乙女です。ピュグマリオンは、もう一度やさしく唇を押しつけました。そして、彼は女神アフロディーテに感謝しました。
ピュグマリオンとガラテアの結婚
アフロディーテは、ピュグマリオンとガラテアの結婚を祝福しました。二人の子供はパポスと名付けられました。アフロディーテに捧げられたパポスという街は、この子の名に由来しています。パポスの子キニュラスが王となり、キュプロス島を繁栄させ、立派なアフロディーテの神殿を築いたと言われています。
※このギリシャ神話から触発されたのが、バーナード・ショーの戯曲『ピグマリオン』。この戯曲のミュージカル化が『マイ・フェアレディ』です。
ジャン=レオン・ジェローム〈ピュグマリオンとガラテア〉習作