王様の耳はロバの耳アレキサンダー大王
(更新日:2019.06.20)
「王様の耳はロバの耳」は、ギリシャ神話です。
あなたは自分の手に触れるものが、全て「金(ゴールド)」になったらうれしいですか? しかし、「金1gいくらだったっけ?」と取らぬ狸の皮算用をしてはいけません。なぜなら、「王様の耳はロバの耳」のミダス王のギリシャ神話を知れば、その理由がわかります。
ニコラ・プッサン〈ミダス王とバッカス〉アルテ・ピナコテーク(ドイツ)
ミダス王の喜びと後悔
酒の神ディオニュソス(バッカス)の師シレノスが酒を飲んでいなくなりました。農夫たちが酔った彼を、シレノスを崇拝していたミダス王の宮殿へつれていったからです。
シレノスはミダス王の宮殿で10日間歓待されて、11日目に無事に帰ってきました。このお礼に、ディオニュソスはミダス王の願いをなんでも聞いてあげることにしました。
「触れるものはなんでも、黄金に変わるようにしていただきたい」
ディオニュソスは、もっと賢明な願いをすれば良いのにと残念に思いました。が、その願いをかなえてやりました。ミダス王は喜んで、木の枝に触れて金の枝にしたり、リンゴを触り金のリンゴに変えたりして、たいそう喜びました。
ところが、食事の時、パンをつかむとパンは黄金に変わり、ワインを飲もうとするとグラスは黄金に変わり、そのワインも飲むと黄金に変わりドロッと喉に流れていきました。「これでは、飢え死にしてしまう!」と後悔して、ディオニュソスに何とか元に戻してほしいと救いを求めました。
ニコラ・プッサン〈パクトロス川の源泉で行水するミダス〉メトロポリタン美術館
酒の神ディオニュソスは、ミダス王に告げました。
「パクトロスの河の源泉で、頭と身体をひたして、おまえの罪と罰とを洗い流すがよい」
ミダス王は言われたとおりにしました。水に手と身体を入れると黄金に変える力は消えていきました。その時にふれた河の水が砂金に変わり、パクトロス河は金の産地になったのです。
アポローン神と牧羊神マルシュアスの音楽の腕試し
このことがあってから、ミダス王は富と栄華をきらい、田舎に住み、牧羊神マルシュアスの崇拝者になりました。
ある時、マルシュアスはアポローン神に音楽の腕試しをしてみようと、無謀にも言いだしました。山の神トモーロスが審判にえらばれ、音楽の腕試しが始まりました。(一説には、審判はアポローン神のムーサたち)
マルシュアスのひなびた葦笛の調べは、自身をも、また信者のミダス王をも満足させました。次は月桂樹の冠をいただき、緋(ひ)色の衣をたなびかせたアポローン神です。左手に竪琴を持ち、右手でその弦を鳴らしました。その調べは、森の木も動物も、岩までも耳を傾けるほどでした。
【アポローンの残虐 マルシュアス】参照
ヤーコブ・ヨルダーンス〈アポローン神と牧羊神マルシュアスの音楽対決の判定〉
王様の耳は、ロバの耳!
トモーロスは、勝利をこの竪琴の神アポローンへ与えました。みんなも同意しましたが、ミダス王だけは意義をとなえ、その判定にケチをつけました。アポローン神は、
「このような不埒な耳は人間の耳の形をしていてはいけない」
と、ミダス王の耳をロバの耳に変えてしまったのです。
その後、ミダス王は恥ずかしさのため、頭巾をかぶりロバの耳を隠していました。しかし、髪切りの召使いだけには頭巾を取らざるをえません。
「決して秘密をもらしてはならぬ」
とミダス王に命令された召使いは、長い間我慢していました。しかし、とうとう我慢できなくなりました。毎夜草原に行き、穴を掘り「王様の耳は、ロバの耳!」とささやき、穴を埋めていました。やがて、葦が大きくなって風にゆれると、その秘密「王様の耳は、ロバの耳!」と、草原からささやき声が聞こえるようになったのです。
ジャン=シモン・ベルテレミー〈ゴルディアスの結び目を断ち切るアレクサンドロス大王〉
ゴルディアスの結び目とアレキサンダー大王
ところで、ミダス王はプリギュアの王でした。
農夫であったミダス王の父親ゴルディアスは、「王は荷馬車に乗ってやってくるだろう」という神託により、プリギアの王になりました。彼は荷馬車を神託を下した神にささげ、その場に車をつなぎとめて固く結び目を作りました。
長い間、「この結び目を解いた者は、アジア全土の王となるであろう」と言われてきました。多くの人々が試みましたが、成功したものはなかなか現れません。ある若き王も遠征の途中で試しましたが成功せず。とうとうカンシャクをおこし、剣で結び目を断ち切ってしまいました。この若き王が、あのアレキサンダー大王です。