1話5分で読めるギリシャ神話

ギリシャ神話の神・女神・英雄のエピソードが、絵画で分かりやすい。また、ギリシャ神話はあなたの美術鑑賞に役立ちます。〈1話5分で読める聖書-アートバイブル

アガメムノン【1】トロイアからの凱旋の日

(更新日:2021.05.02)

【オレステイア3部作】
オレステイア(オレステスの物語)とは、伝説的な古代ギリシャ・ミュケナイの王アガメムノンとその妻クリュタイメストラ、その間に生れた息子オレステスや娘エレクトラを扱った一連の物語です。
トロイア戦争に総大将として遠征したアガメムノンが、凱旋してまもなく妻とその情夫アイギストスにより殺害されるまでがこの『アガメムノン』。やがて長い間の外国寄留からもどった息子オレステスが姉エレクトラとめぐり合い、あい謀って母とその情夫を殺し復讐を遂げるのが『供養する女たち』。
しかし、オレステスは母を殺した咎めにより復讐の女神ら(エリニュス)に追い回され、狂乱して諸国をめぐります。最後にデルポイの神殿でアポロン神のめぐみ深い託宣により、アテナイに赴いてそこの最高法廷で裁きを受けることに。その結果、オレステスは女神アテナから赦免をいただき、一方復讐女神らも転じてアテナイ市を守る「めぐみ深い善意の女神たち」となって祀られ、大団円を迎えます(『慈みの女神たち』)。

※トロイア陥落の知らせ(松明の火のリレー)から数日後にはアガメムノンはカッサンドラーを連れアルゴスに帰還します。ギリシャとトロイアの地理と船の移動を考えると、時間的には考えられません。劇の演出で、劇最初の物見の男の台詞が、伏線になっています。

アガメムノンの黄金のマスク
〈アガメムノンの黄金のマスク〉

アイスキュロス作『アガメムノン』【1/3】オレステイア3部作の第1作
コロス(合唱隊)=市の長老たち

トロイア陥落の知らせ

〔夜更けのアガメムノン宮殿前〕
物見の男
奥方様〜、トロイアの陥落の知らせです。起きてください。歓迎と祝いの準備を。
(独白)もとはいえば、この物見は男のような企みを謀るお奥方様が指図されたことなのだが。その理由は内証、内証。

(館の中に明かりが灯りあわただしくなる。知らせを受けたコロス=市の長老たち登場。アガメムノン王妃クリュタイメストラ登場)

コロス
アトレウス家のアガメムノン様とメネラオス様がギリシャ勢を率いてトロイアに攻め入りはや10年。この知らせは、真実なのですか。喜ばせておいて、間違いということはよくあること?
クリュタイメストラ
真実の知らせです。
コロス
して、その証拠はございますか?
クリュタイメストラ
ヘパイストス神です。トロイアのイーダ山から合図の松明の火が送られて、火の飛脚がここまでもたらしました。
コロス
奥方様、詳しくお教え下さい。
クリュタイメストラ
今日という今日、ギリシャの兵がトロイアを陥落したということです。市の中に征服された者と征服した者との声が、混じり合わない酢と酒のように聞こえるようです。また、勝者は貪欲の心にまけて略奪などしないで、トロイアの守り神の御社を敬いまつるなら、無事に帰ることができましょう。
コロス
奥方様、分別のある殿方のような利発なお言葉でございます。
(クリュタイメストラ宮殿の中へ)

コロス
もうすぐ分かるだろう、火を次々に伝えたという松明が真実か、夢なのかどうか。あれ、浜辺から伝令の使いが来る。しっかりと人の口から聞きたいものだ。

(伝令登場)
伝令
おお、アルゴス国のなつかしい地面よ、10年目に帰ってきたぞ。ゼウス様、アポロン様、あらゆる神々様。帰ってきた軍をお受け入れください。ここにいる皆様、アガメムノン王を歓迎してください。トロイアを滅ぼした大将を。
コロス
伝令の方、この10年間どんなに暗い心で吉報を待っていたことか。
伝令
トロイアでの宿営の悪さ、冬のイーダ山の大鳥でも死ぬという雪嵐の寒さ、夏の大海原の気怠い暑さ、嘆いても戻らない死んでしまった兵士、これらはすべて昔のこととなりました。トロイアを陥落させたのですから。失ったものを超える戦利品を手に入れた将軍たちを讃えましょう。大神ゼウスを崇めましょう。
コロス
王宮の人たち、とりあけクリュタイメストラ様にもこの知らせをお伝えくだされ。

(クリュタイメストラ登場)
クリュタイメストラ
私はさっきから万歳をあげていました。皆様がたは、女の松明の話など信じていないようでしたが。また、殿ご自身から詳しく聞かれますゆえ、伝令の方から聞く必要はありません。
(クリュタイメストラ退場)

コロス
ところで、メネラオス様や他の将軍たちはすでにご帰還されましたか?
伝令
他の船に乗った将軍たちのことは、存じ上げていません。
※カッサンドラーを陵辱した小アイアスに怒った女神アテナが、ギリシャ軍を散々な目に合わせます。オデュッセウスはこの後10年にわたる放浪をします。

アガメムノンの凱旋とクリュタイメストラの邪心

アガメムノンの帰還
(アガメムノン王、戦利品のトロイア王妃カッサンドラーとともに車駕に乗って登場)
コロス
王様、お帰りなさいませ、アトレウス家の党首様。トロイアの都をうち滅ばしたお方。当初ヘレネーたった一人のために遠征軍を起こすとはいささか興ざめに思っておりましたが、ことを成し遂げたなら、もう疎ましくは存じませぬ。
アガメムノン
御身らの心のうちは聞き知っておる。わしも、御身らの意見と同じ所存であった。だが、わしの第一のつとめは、まずトロイアに報復したことを神々に感謝することであろう。
(クリュタイメストラ登場)
クリュタイメストラ
私は、これまでの淋しい心のうちを話しても恥ずかしいこととは思いません。殿様が怪我をしたなど意地の悪い噂のため、死にたいと思い、何度梁に縄をかけたことでしょう。しかし、他の良い噂がその縄を外してくれました。今のわたしには湧いて出る涙の泉も、すっかり枯れ果ててしまいました。夜寝つかれない目は、今も腫れて痛みます。
こうしたわけで、殿さまに何かあった場合、災いにあわぬよう息子オレステスはポーキスのストロピオス様のところに預けました。なんにせよ、苦しみを逃れ出るのは楽しいことです。
(侍女に)何をぐずぐずしているのです。殿様の通り路に紫の敷物をしきなさい。
アガメムノン
レーダーの娘よ、わしの留守のあいだ良く王宮を守ってくれた。しかし、歓迎にあまりの贅をつくしてはならぬ。神の嫉みを招くのはよくない。神としてでなく、人間の夫として敬うてくれといっておるのだ。
※クリュタイメストラはヘレネーとは姉妹で白鳥になったゼウスとレーダーの娘。
クリュタイメストラ
一つお訪ねしとうございます、ほんのご心中を。反対にトロイアのプリアモス王が勝利したとすれば、彼はどうしたとお考えですか。
アガメムノン
きっと美しい錦の敷物の路を歩んだろうなあ。
クリュタイメストラ
では、お聞き入れを。わが王宮には、黄金にもひとしい衣を染める紫貝が豊富にありますから。
アガメムノン
御身がぜひと言われるなら、裸足で紫の上を歩んで、館に入るとしよう。
(アガメムノン車駕を降りて、厳かに王宮の門にすすむ)

クリュタイメストラの邪心

クリュタイメストラ(独白)
(独白)いとしい娘イーピゲネイアの命を取り返す工夫をこらしていたおり、ご神託をいただくお宮で、私にそう指図がありましたら、いくらでも殿の血で染まった敷物を差し出しましたのに。殿が、館にお帰りあそばれたのは、嵐の冬が立ち戻ったとの報せのよう。
ゼウス大神が、まだすっぱいの葡萄の房から酒を醸し出された今、寒さが館に立ち戻ります。申し分なく務めを果たす殿御(情婦アイギストス)が家に来ていますから。願いを果たしてくださるゼウス大神、なにとぞ私の願いを遂げさせてくださいませ。

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