1話5分で読めるギリシャ神話

ギリシャ神話の神・女神・英雄のエピソードが、絵画で分かりやすい。また、ギリシャ神話はあなたの美術鑑賞に役立ちます。〈1話5分で読める聖書-アートバイブル

ギリシャ神話ホームヘラクレス|蓮の花になったドリュオぺー

蓮の花になったドリュオぺー

(更新日:2021.10.30)

一般的にドリュオペーは蓮華草になった、という話が多くあります。
しかし、この話では人間が包まれたり、顔が花になりますので、ふつうの蓮で良いと思います。蓮華草では小さすぎますから。
ところで、イオレーの夫ヒュロスの両親ヘラクレスとデイアネイラはすでに死んでいますが、ヘラクレスの母アルクメネーは長生きしていたのですね。それも、孫やひ孫と暮らしていたのは、よかったです。

蓮の花
〈蓮の花〉

ガランティス イタチのお話」は、ヘラクレスの母アルクメネーが孫ヒュロスの嫁イオレーが妊娠していたので、自分のお産の思い出を語ったものでした。

すると今度は、イオレーが自分の身の上話をはじめました。
「でも、お母さま。そのイタチに変身した娘は私たちの親戚縁者ではありませんわ。私のお姉さまの不思議な話をしたら、どうお思いになるでしょう。思い出すと涙が出てきて、うまく話せるかどうか分かりません...」

アポローン神に純潔を奪われたドリュオぺー

イオレーには腹ちがいの姉ドリュオペーがいました。オイカリアでは一番の美人との評判だったドリュオペー。アポローン神により純潔を失っていました。

それでも、ドリュオペーはカリュドーンの王アンドライモンに妻に迎えられ、二人は幸せに暮らしていました。

ある日、イオレーと1才になった子供を抱いたドリュオペーは湖の岸辺にやってきました。その岸辺には、蓮が花を咲かせています。ドリュオペーは、この蓮の花を子供に与えようとして、一輪摘みました。イオレーも花を摘もうとしたら、

「えっ!血が?」花から血のしずくが落ち、長くのびた茎がブルブルふるえているのです。

実は、ローティスという妖精がみだらなプリアポスの欲望から逃れるために、この蓮(ロータス)に変身していたのです。ドリュオペーはそれに気づかず、花を摘んでしまったのでした。

プリアポス
ギリシア神話における羊飼い、庭園および果樹園の守護神で生殖と豊穣をつかさどる。男性の生殖力の神。絵画ではその象徴として、果物と巨大な陰茎が描かれる。

男性の生殖力の神プリアポス
〈男性の生殖力の神プリアポス〉あまりに露骨なので修正

妖精ローティスの呪い

血のしずくを見て、ドリュオペーは引き返そうとしました。しかし、足が動きません。根が生えてしまっていたのです。引き抜こうとしますが、動くのは上半身だけ。しかも、下の方から緑の茎がその上半身をおおってきます。

ドリュオペーは驚いて、手で髪の毛をつかもうとしました。しかし、その手はもう大きな葉になっていました。彼女の子供は乳を吸おうとしましたが、茎になってしまった乳房からは乳は出ません。

イオレーは姉の体を抱きしめ、自分もいっしょに蓮になりたいと思いました。そして、大声をあげて、ドリュオペーの夫アンドライモンと父エウリュトスを呼びます。やってきた二人は、ドリュオペーの子供が蓮の茎にしがみついているのを見て驚きました。

イオレーは、蓮を指さしました。もうかろうじて、ドリュオペーの顔だけが茎の上に残っているだけでした。彼女は涙で目をうるませ、涙は水の玉となって落ちていきます。

「花は妖精が姿を変えたもの。だから摘まないで」

ドリュオペーは、最後に語ります。

「神にかけて誓います。私はこのような罰を受ける罪は、けっして犯していません。しかも、話すことも、もうすぐできなくなります。せめて、この子だけは乳母にあずけてください。そして、ここでこの子に乳をあげてください。

子供が大きくなったら教えてあげてください。『この蓮の花の中に、あなたのお母さんが入っているの』と。湖に近づいたら、『花はみんな妖精が姿を変えたもの。だからもう花を摘まないで!』と。

さよなら、あなた。さよなら、イオレー。そして、お父さまもさようなら。わたしの坊やを抱き上げてください。まだ、ぬくもりがあるうちに、口づけをさせてください」

夫アンドライモンは、子供を抱き上げると差し上げました。その口づけがかなうと、その顔は花に変わってしまいました。

イオレーの驚くべき不思議な話を聞くと、アルクメネーは涙を流しながらも、イオレーの涙を拭ってやるのでした。

蓮華草(レンゲソウ)
一般的にドリュオペーは蓮華草になったという話が、多くあります。が、この話の元オウィディウス『変身物語』では、蓮(の木)と出ています。どうして、あの小さな花の蓮華草になったのかは不明です。蓮の花に似ていることから、「蓮華草」という名が付いたということですが。また、話に出てくるローティス「Lotus」の名も、レンゲソウの英訳「Astragalus sinicus」とは違います。
英名「lotus」はギリシア語由来で、元はエジプトに自生するスイレンの一種「ヨザキスイレン Nymphaea lotus」です。

蓮華草
〈蓮華草は確かに蓮の花と似ていますね〉

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