〈ヘラクレスのお産〉奥の二人の右がガランティス
ヘラクレスの母アルクメネのお産を遅らせなさい!
ヘラの嫉妬に苦しめられたヘラクレスの母アルクメネ。そのお産は、大変なものでした。もう陣痛が始まってから、七日と七晩経っていました。
アルクメネはお産を司る女神エイレイテュイアと3人の助産神を呼んだのです。ところが、この女神エイレイテュイアはゼウスの妃ヘラにより、言い含められていたのです。
女神エイレイテュイアは戸口の前の祭壇に腰をおろすと、膝を組み、腕を組み、指を絡ませ、絶対に出産させないように、呪文を唱えていました。
このままでは、ヘラの思惑どおりアルクメネはいつまで経っても出産できません。
金髪娘ガランティス
この時、ヘラの敵意が働いていると気づいたのが、アルクメネの侍女ガランティス。
けっして、良家の出ではなかったのですが、機転のきく賢い金髪娘でした。アルクメネのそばを離れて、女神エイレイテュイアの前に行くと言いました。
「奥様に祝福を! アルクメネ様は身軽になり、母となりました。立派なゼウス様のお子を産んだのです」
これにびっくりしたのが、エイレイテュイア。その言葉に飛び上がり、組んでいた指を思わず離してしまいました。その瞬間、呪縛がとけて、ヘラクレスは誕生したのです。
ガランティスは、女神エイレイテュイアがいっぱい喰わされたのを見て、思わず吹き出してしまいました。怒ったのは、女神です。
「小賢しい女は、小賢しい動物になってしまえ!」
女神は、ガランティスの髪の毛をつかんで、振り倒しました。そして、立ち上がれないよう、腕を前足に変えてしまいました。
口から出まかせの嘘でアルクメネを助けたということで、ガランティスは口から子を産むと言われているイタチに変えられてしまったのです。
この後も、イタチはひんぱんにアルクメネの屋敷に出入りしていたそうです。
Physiologus(フィシオロゴス:自然を知る者、博物学者)第21話 イタチについて
アリストテレスは、「オオガラスとトキ(イビス)は口で交わり、四足類のイタチは口で子を産む」という自然哲学者たちの意見を、単純で軽率な説として退けている(『動物発生論』第3巻)。
そして、イタチが子を口にくわえて運ぶことが、そういう見解をつくりだしたのだと、もっともな意見を述べている。
プルタルコスは、『イシスとオシリス』で「イタチが耳で交尾し口で子を産む」というのはエジプトの伝承だと述べている。