ヘラクレスの誕生
大地女神ガイアが生み出したギガンテス(巨人族)は、決して神々には殺せません。そこで、ゼウスは来るべきギガントマキア(巨人族との戦い)にそなえ、人間の英雄を生ませることにしました。
目を付けたのが、貞節な乙女アルクメネ。
しかし、ゼウスといえども簡単に契りを結ぶことはできません。そこで、アルクメネの婚約者アンピトリュオンが戦地に行った際に、ゼウスは彼に化けて近づきました。この時、ゼウスは、1夜を3倍の長さにして楽しんだといいます。
本物のアンピトリュオンは戦地から戻ると、アルクメネと契りを結びます。この時、彼は「なにか彼女の様子がおかしい?」と思い、予言者テイレシアスに相談しました。
すると、婚約者が身ごもっている、またその子の父が大神ゼウスと知りました。以後、アンピトリュオンは大神の怒りを恐れ、いっさいアルクメネには触れようとしませんでした。
そして、アルクメネは、大神ゼウスの子ヘラクレスと人間アンピトリュオンの子イピクレスの双子を生みました。
〈ヘラクレスの幼児期〉
天の川の起源とヘラの怒り
ルーベンス〈天の川の起源〉
ゼウスはヘラクレスを不死にするため、無理やりヘラに授乳をさせます。寝ているヘラの乳を吸うヘラクレス。その力があまりに強く、女神はびっくりして起きあがりました。
その時、片方の母乳が上に飛びちり〈天の川〉になり、もう片方の母乳が地に落ちて〈白百合〉になったといわれています。白百合はヘラの象徴です。ヘラクレスとアルクメネに対するヘラの怒りは凄まじく、幼子が入っている籠に毒蛇を2匹放ちました。しかし、ヘラクレスは簡単に2匹の蛇を握りつぶしてしまいます。
また、ヘラは成人したヘラクレスを狂気の人に変えてしまったこともあります。彼はわが子を炎に投げ込んで殺してしまいます。悲しんだ妻メガラーは、自殺したということです。
ヘラクレスは正気に戻ったとき、その罪を悔い、アポロンの神託を乞いました。
神託は告げました。〈ミュケーナイ王エウリュステウスに仕え、10の難業を果たせ〉と。ヘラクレスの数々の冒険が、幕を開けることになったのです。
実はヘラの仕打ちは、ヘラクレスの誕生前にもありました。
アルクメネが産気づいた時、ゼウスは生まれてくる子(ヘラクレス)をミュケーナイの王位につけようと思い、「今日生まれる最初のペルセウスの後裔が、全アルゴスの支配者となる」と誓言しました。
こう誓言したのはヘラの企みで、迷妄の女神アテにゼウスを惑わせたからです。
ヘラはゼウスに確認します。「いい加減なことをおっしゃいますこと。今度もお言葉の通りにはなさらぬくせに。でも、本心そうおっしゃいますなら、決して破らぬと強い誓いを私にしてくださいませ」
ゼウスはヘラの企みとは気付かず、誓いを確約しました。
ヘラは確約した後、出産を司る女神エイレイテュイアを遣わしてアルクメネの出産を遅らせます。そして、もう1人のペルセウスの子孫でまだ7か月だったエウリュステウスを先に産ませたのです。
こうして、エウリュステウスがミュケーナイの王になったのです。ヘラクレスは、理不尽でもこの王命に従うしかありません。
ゼウスは後で真相を知ると怒り、迷妄の女神アテをオリュンポスから地上に投げ落とたということです。