恋愛の女神アフロディテが乙女に!
アフロディテ(ヴィーナス)と息子エロスが遊んでいる時、エロスの矢がアフロディテの胸をキズつけてしまいました。
アフロディテのキズがいえる前に、女神が初めて見たのが若者アドニス。アフロディテは、たちまち恋のとりこになってしまいました。
アフロディテは、女神を祭っているパポスの町、クニドスの島、アマトゥースにも行かず、またオリュンポス山の神々の宴にも行かず、ただひたすらアドニスと一緒にいました。
狩りをしたり、山野を駆け回っている女神は、まるで狩りの女神アルテミスのようです。
木陰で休んでいたり、自分の美しさばかりを気にかけていた頃とは全く違うアフロディテ。女神は、恋する乙女になってしまったのです。
「オオカミ、クマやイノシシには近づかないようにしてね。決して自分の勇気を試したり、思い上がってはいけませんよ」
アドニスにそう諭してから、アフロディテは白鳥の二輪馬車で久しぶりにキプロス島に向かいました。
若者は大人の忠告は聞きません
犬たちが大きなイノシシを洞穴から追い出すと、アドニスは槍を投げつけました。槍は見事にイノシシの脇腹に命中。
しかし、大イノシシはこのキズごときでは倒れません。猛然とアドニスに向かって駆けてきます。逃げ出すアドニス。イノシシの速さはアドニスよりはるかに速く、その牙がアドニスの脇腹を突き刺しました。
「ウギャー!」
アドニスの悲鳴に驚くアフロディテ
アドニスの悲鳴に驚いたアフロディテは、白鳥の二輪車の向きを悲鳴がした場所に向けると、大急ぎで戻ってきました。
息絶えようとしているアドニス。女神はアドニスを抱きかかえ、自分の胸元をたたき、髪をかきむしりながら叫びました。
「運命の女神よ、全てが、あなたたちに屈するわけではない。アドニスは永遠に私の悲しみの思い出となり、毎年彼のために祭が開かれ、その死にざまは繰り返し舞台で演じられるであろう」
アフロディテが神酒ネクタルをアドニスの流れた血に注ぐと、血は泡立ち、やがて真っ赤な花が現れました。
しかし、この花の命は短いのです。風(アネモス)が花を咲かせたかと思うと、次の風が花を散らせるのです。それで、「風の花(アネモネ)」と名付けられました。
ところで、このイノシシは、一説にはアフロディテの情夫・軍神アレスであったとの説もあります。アレスの嫉妬がアドニスを殺したのだと......