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アウトメドンと不死の駿馬クサントスとバリオス(部分)〈アウトメドンと不死の駿馬クサントスとバリオス〉

神馬クサントスとバリオス

ギリシャ勢、トロイア軍がパトロクロスの遺体の周りで激しい戦いを繰り広げていた頃、パトロクロスに次ぐミュルミドネスの英雄アウトメドンのムチにも優しい言葉にも一切反応せず、神馬クサントスとバリオスは立ちすくんでいました。その瞼からは、今は亡き主人を悲しんで、熱い涙が地上に流れ落ちています。

ゼウスは、それを見下ろして言います。
「哀れな不死の馬どもよ、死すべき人間の中にあって、死を知るべき運命でもあったか。だが、お前たちが引く戦車にヘクトルが乗ることはない。わしが許さぬ。アウトメドンを無事に船陣まで乗せていけるように、お前たちにも力を吹き込んでやろう」

誰も御しては戦えぬ神馬の戦車

アウトメドンは、アキレウスの戦車に乗って戦場を駆け回るだけでした。なぜなら、この神馬が引く戦車を御しながら戦えるのはアキレウスと死んだパトロクロスだけです。

それを見ていたミュルミドネス第五隊長のアルキメドンが声をかけます。
「アウトメドンよ、アキレウスの戦車で駆け回るだけで、なぜ戦かおうとしないのか?」

「アルキメドンよ、この戦車に乗ってかつ戦えるのはアキレウスとパトロクロスだけだ。そこで、おぬしに頼む。わしは降りて戦うので、手綱を取ってくれ」

アルキメドンが戦車に乗り込むと、アウトメドンは戦車から降りました。

それを見ていたヘクトルは、アイネイアスを誘います。
「アイネイアスよ、わしと二人であの見事な馬を奪おうではないか。われら二人が襲いかかれば、戦おうとするはずはない」

こうして、二人は神馬の引く戦車に向かいます。その後ろをクロミオスとアトレスが従っています。

アウトメドン、パトロクロスの死に報いる

「アルキメドンよ、わしのそばにしっかりついてきてくれ。ヘクトルは手強いからな。両アイアスとメネラオスよ、ヘクトルとアイネイアスが我らに近づいてきた。パトロクロスの遺体は他の者に任せ、我らに手を貸してくれ」

こう言ってアウトメドンが槍をトロイア勢に投げると、アトレスの楯に当たりました。槍は楯を貫通しアレトスの下腹を貫きました。今度はヘクトルがアウトメドンに槍を投げます。これをかわすと、アウトメドンはヘクトルと太刀で戦おうとします。

が、間に両アイアスが入り、二人を分けました。ヘクトル、アイネイアス、クロミオスはアトレスの遺体を残し退きます。

アウトメドンは、アレトスの武具を剥ぎます。
「これで、パトロクロスの死に一矢を報い、悲しみも少しは晴れた」

靄の中の戦い〈靄の中の戦い〉

アテナ、降臨す

ゼウスはアテナを呼び、ギリシャ勢を鼓舞するよう命じました。女神は紫の雲に包まれて地上に降り立つと、メネラオスに老ポイニクスの姿を借りて告げます。
「メネラオスよ、パトロクロスの遺体をトロイア勢に渡してはならぬ。そうなれば、そなたが世間の批判を浴びることになる」

「ポイニクスよ、ゼウスが手柄を与えようとしているヘクトルの勢いは火のように激しい。せめて、女神アテナが私に力を与えてくれれば良いのだが」

自分の名が呼ばれ、気を良くしたアテナがメネラオスに力をあたえると、彼はパトロクロスの遺体をまたいで立ちます。やってきたトロイア軍のポデスに槍を投げます。槍は命中し、メネラオスは彼の遺体を運び出します。

すると、アポロンはヘクトルの親友に姿を変えて言います。
「ヘクトルよ、なぜ戦わぬ。メネラオスごときに怖気を振るっているようでは、ギリシャ勢は誰もおぬしを恐れぬぞ」

ゼウス、凄まじい雷鳴を起こす

ゼウスの神慮は、この場ではトロイア軍に勝利を授けること。ギリシャ勢は恐怖に落ちいり、潰走しはじめました。

イドメネウスは、それでも追ってくるヘクトルに槍を投げつけます。槍はそれ、トロイア勢が歓声をあげます。今度はヘクトルが槍を投げ返します。イドメネウスには当たらなかったが、彼の戦車の御者に刺さりました。イドメネウスは手綱を取ると、ヘクトルとは戦わずそのまま逃げていきました。

もはや、大アイアスとメネラオスもゼウスの意図を知りました。
「なんたることか、われらの槍はそれて、トロイア勢の槍はゼウスの導きで必ず命中する。こうなってはパトロクロスの遺体を運べるかどうか。

さらに、このような靄では、パトロクロスの死をアキレウスに知らせる者が誰がいるか見えぬ。ゼウスよ、どうか靄を取り払い、明るさを取り戻してください。死んでも構いません」

ゼウスは大アイアスを憐れみ、靄を払うと、辺りは明るくなりました。
「メネラオスよ、老ネストルの子アンティロコスの姿が見えるか。アキレウスに知らせる使いとしたい」

パトロクロスの遺体をめぐる戦い〈パトロクロスの遺体をめぐる戦い〉

アンティロコス、知らせに走る

メネラオスは、両アイアスとメネリオスに声をかけ、パトロクロスの遺体を守るように伝えると、アンティロコスの姿を見つけようとその場を去り、彼を見つけ出すと伝えました。

「アンティロコスよ、勝利は今やトロイアにある。パトロクロスは討たれた。船陣に走り、アキレウスにこのことを伝えてもらいたい。アキレウスが亡骸を運んでくれるかもしれね。武具はヘクトルの手中にある」

アンティロコスは言葉を失い、涙を流しました。しかし、すぐに武具を部下に預けると、走り出します。メネラオスはパトロクロスの遺体を守りに戻り、アイアスの傍に再び立ちました。

メネラオスは、アイアスに伝えます。
「アンティロコスには伝えた。だが、アキレウスは出馬せぬと思う。我らで遺体を運ぶ算段をしよう」
「メネラオスよ、メリオネスとともに遺体を担ぎ上げ、運んでくれ。我ら両アイアスが後ろでトロイア勢を防ぎながらついていく」

トロイア勢は彼らに襲いかかろうとしましたが、両アイアスが振り返り、立ちふさがると戦う者は一人もいません。周りでは激しい戦いは止まず、ギリシャ勢はヘクトルとアイネイアスに襲われながらも退いていきます。