【第20歌】ゼウス、神々の参戦を許す
(更新日:2021.04.23)
ギリシャ勢が不利な状況にある中、アキレウスはようやく戦いに参加しました。ここに至って、ゼウスはようやくテティスの願いをかなえことになります。ゼウスにしては、肩の荷が下りたということでしょう。
そこで、ゼウスは高みの見物を決め込みます。あとは、アキレウスが生きているうちにトロイアが陥落せぬよう、神々の小競り合いを期待し参戦を許しました。
〈ギリシャ側の神々〉
【イリアス 第20歌】
ゼウス、神々を招集
ついに、アキレウスが戦場に立ちました。それを見届けると、ゼウスは女神テミスに全ての神々をオリュンポスに召集させます。河神オケアノスをのぞき、全ての神々がゼウスの館に集まってきました。
いち早く、ポセイドンが口を開きます。
「雷光の神ゼウスよ、なぜ、われわれを招集したのか?」
「ポセイドンよ、わしの意図は察しがついているだろう。もはや、わしは動かず、見物することにした。だから、そなたたちはトロイア側だろうが、ギリシャ側だろうが思うようにすればよい。アキレウスが立ち上がったとなれば、このままでは運命に逆らって、トロイアを陥落するやもしれん。それは断じてならぬ事と決まっているからな」
<h3>トロイア側の神々vsギリシャ側の神々
かくして、トロイア側についた主な神々は、軍神アレス、アポロンとその妹アルテミス、その二人の母レト、アフロディテなど。
ギリシャ側についた主な神々は、ヘラ、アテナ、ポセイドン、ヘルメス、ヘパイストスなど。
神々は両軍を鼓舞して戦わせるとともに、自らも戦いに参加します。
〈トロイア側の神々〉
アポロン、アイネイアスを鼓舞
早速アポロンはプリアモス王の息子リュカオンとなって、アイネイアスを促します。
「アイネイアスよ、かつてアキレウスと一騎打ちの勝負をすると言ってたな。その豪気は今はどこへ行った。今こそ、その時ではないのか」
「なにゆえ、そなたは私とアキレウスを戦わせようとする。私は一度、彼に追われたことがある。幸い、その時はゼウスに救われた。それにな、アキレウスの前にはいつもアテナがいるのだ。女神がいなければ、私とて簡単に引き下がるつもりはない」
「アイネイアスよ、おぬしの母はオリュンポス12神の一人アフロディテ。それに対して、アキレウスの母は海の老人ネレウスの娘テティスではないか。身分の違いは天と地ほどもある」
アポロンはこう言って、アイネイアスを鼓舞します。
アポロンを見逃さないヘラ
「ポセイドンとアテナよ、アイネイアスがアキレウスに向かっていく。アポロンが鼓舞したのだ。誰かわれらの神が行って、アキレウスが気後れせぬようにしなければ」
ポセイドンがそれに答えて、
「ヘラよ、腹をお立てになるな。わしは、他の神とは戦いたくはない。アレスかアポロンがアキレウスを動けぬようにするなら、その時はわれらも戦おうではないか。向こうの神は、我らより力が劣るのは明白だからな」
アキレウスvsアイネイアス
アキレウスが口を開きます。
「アイネイアスよ、そなたはかつて一度私の前から逃げ出した。何でまた来たか? 私を倒してトロイアの王位でも継ぐつもりか。そんなことにはならぬぞ。だから、痛い目に会う前に私の前から消え失せろ。ことが済んでから、気づくのは愚か者だぞ」
「アキレウスよ、おぬしの母は海の老人ネレウスの娘テティス。わしの母はオリュンポス12神の一人アフロディテ。位の違いがわかっているのか。そもそも、我が家系はぜウスの一子ダルダノスから始まっている。そして、今のプリアモス王のヘクトルまで続いている。その中には、かつてゼウスが連れ去ったガニュメデス、曙の女神に愛されたティトノスなど、神にゆかりが深いのだ。だが、今はもう言い争いはやめて、戦おう」
こう言い終えると、アイネイアスは槍を投げました。槍は神ヘパイストスが作った楯に刺さります。しかし、楯は青銅が二層、黄金が一層、錫が二層の五重の構造になっています。槍は、その三層目の黄金のところで止まりました。
今度はアキレウスが槍を投げると、槍は楯の周辺部を通して、そのまま地上に刺さります。すかさず、アキレウスは太刀をとると襲いかかります。対して、アイネイアスは大きな石を持ち上げました。
ポセイドンの焦リ
「ああ、なんたることか、アイネイアスが討たれてしまうぞ。そうなれば、ゼウスが腹を立てるかもしれぬ。彼は、このトロイア戦争では死を免れることになっているのだ。ヘラよ、トロイア陥落がなくなるかもしれぬぞ。くそ、アポロンのせいだ。われらの誰かが、彼を救ってやらねばなるまい」
「ポセイドンよ、そなたが救ってやれば良いではないか」
ヘラは、そう答えました。
ポセイドンは、すぐさま二人の戦いの場へ降りて行きました。アキレウスの目には靄をかけ、アイネイアスの楯に刺さった槍を抜くと、アキレウスの足元に置きました。アイネイアスの身は宙に放り投げて、戦場の端まで移し、話します。
「アイネイアスよ、無謀にもほどがある。アキレウスとは戦うな。しかし、彼の命運が尽きて最後を遂げたら、第一線で戦うがよい」
そう言うと、ポセイドンはアキレウスのところに戻って、靄を払います。
「これはまた不思議なことだ。槍はここにあるのに狙った男の姿は見えぬ。どうやら、アイネイアスはどこぞの神に愛されているのだろう」
こういうと、アキレウスは隊列に戻り、ギリシャ勢を鼓舞します。
一方ヘクトルも、トロイア軍を勇気付けています。
「アキレウスを恐れるな。確かに彼は強い。しかし、私は彼に立ち向かうつもりだ。神が助けてくれるかもしれぬからな」
しかし、アポロンはへクトルに近づくと
「今は断じて、アキレウスと戦ってはならぬ」と、釘を刺しました。
アキレウスvsヘクトル
アキレウスはすさまじい勢いで、トロイアの将を倒していきます。その中には、ヘクトルの弟ポリュドロスがいました。ヘクトルはもはや引っ込んではいられず、アキレウスの前に出てきました。
「やってきたな、我が最愛の戦友を殺したヘクトルよ、かくなる上はもはや逃げるなよ」
すかさず、ヘクトルが槍を投げると、アテナが息を軽く吹きかけ、槍はヘクトルの足元に落ちます。今度は、アキレウスがヘクトルに襲いかかろうとすると、アポロンはいとも簡単にヘクトルをさらって隠します。
「またしても、命拾いしたな、この犬め。アポロン神が救ったのであろう。今度会うときは、必ず仕留めてやる。私にも神の助太刀があろうからな」
こう言うと、アキレウスはトロイアの他の武将をなぎ倒していきます。その姿はまさに鬼神の如し、彼の行くところ大地は血の海となりました。