【第8歌】後編:楽人のトロイア木馬物語に落涙
(更新日:2021.04.23)
オデュッセウスとナウシカアとの別れ、きっとナウシカアの心はつらかったに違いありません。ナウシカアの父アルキノオス王や妃アレテにも好かれていたオデュッセウス。ましてや、ナウシカアはオデュッセウスを自分が助けたと思っている乙女です。
そして、オデュッセウスは、ついに自分の正体を明かすことになります。正体を明かした後は、いわゆるオデュッセウスの摩訶不思議な冒険談になっていきます。
ヨハン・H・V・ティシュバイン〈オデュッセウスとナウシカア〉
【オデュッセイア 第8歌 後編】
アルキノオス王と12人の領主、オデュッセウスに贈り物
アルキノオス王は、次のような提案をしました。
「パイエケス国の評議にたずさわる名だたる12人の領主よ、わしを含めて13人で客人に贈り物をしようと思う。各自が上衣と肌着、黄金1タラントンを持参されたい。
そして、エウリュアロスよ、先ほどの無礼な言葉を客人に謝り、なにか贈り物をしなさい」
エウリュアロスは総青銅作りの太刀、柄は銀、象牙の鞘をオデュッセウスに贈りました。
日が沈む頃になると、多くの贈り物がアルキノオス王の屋敷に運び込まれました。
オデュッセウスとナウシカアとの別れ
妃アレテは大形の箱を持ってくると、オデュッセウスへの贈り物を詰めます。その間に湯浴み用の湯も沸かせます。
箱はオデュッセウス自ら紐で閉めさせた後、女中たちにオデュッセウスの湯浴みをさせます。
湯浴み後、オデュッセウスが食事の場に向かうと、柱の陰から見ていたナウシカアは、オデュッセウスに別れを告げます。
「お客様、ごきげんよう。国にお帰りになっても、いつか私を思い出してください」
その顔は、感にたえぬ淋しそうな面持ちでした。
「ナウシカア姫、あなたは私の命の恩人です。無事に国に帰れましたら、神様同様崇めるつもりです」
(以後、ナウシカアは『オデュッセイア』には出てきません。)
フランチェスコ・アイエツ〈アルキノオス王の宮殿〉
オデュッセウス、トロイアの木馬物語に落涙
食事の場で、オデュッセウスは楽人デモドコスに所望します。
「前に歌ったトロイア物語はまことにみごとであった。戦いを見ていたかのような生々しさ。今度は趣を変えて木馬の場面、エペイオスがアテナの助けをかりて作り、オデュッセウスが将兵を腹に潜ませ、のちにトロイアが陥落した話を歌ってはくれぬか」
楽人デモドコスが歌いだします。
木馬から出てトロイアの街を破壊していくギリシャ勢、オデュッセウスとメネラオスがデイボボスの屋敷に向かい、凄まじい戦いに挑み、女神アテナの助けにより勝利を収めます......
歌が進むにつれて、オデュッセウスは打ちしおれ、涙が頬を濡らします。
アルキノオス王、オデュッセウスの真実を問う
そんなオデュッセウスに気づいたアルキノオス王。歌をやめさせ、オデュッセウスに問います。
「今の歌は、万人を喜ばせることはないようだ。食事をとり、デモドコスが歌い始めてから今に至るまで、客人は悲しげな呻きを漏らすことをやめない。客人、そなたの名と国を隠すことなく教えてもらいたい。
パイエケスの船には舵もないし、舵取りもいない。船は漕ぎ手の意思を感じ取り、目的地まで迅速に運ぶのだ。
また、先代の王ナウシトオスが言っていた予言がある。
『いかなる客人も届けるのを海神ポセイドンは快く思っていない。いつのことか、船が客人を送り帰ってくる際、海神が船を破壊し、パイエケス国のまわりには巨大な山塊をめぐらすであろう』と。
それが果たされるかどうかは、神の思し召しに任せるしかあるまい。
そして、トロイアの物語を聞いて、涙を流し密かに嘆いていたのにはいかなる理由があってのことなのか?」
ついに、オデュッセウスは自分の正体を明かすことになります。
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