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テレマコス、ピュロスとスパルタへ〈テレマコス、ピュロスとスパルタへ〉

あらすじ

女神アテナとテレマコスがピュロスに到着すると、ネストルの一族がポセイドンへの祭祀を行っていました。

アテナはテレマコスに、聡明なネストルに遠慮せず質問するよう諭します。

ネストルの息子ペイシストラトスはアテナとテレマコスに食事の場を設けます。

テレマコスは勇気を出して、父オデュッセウスの消息を尋ね、ネストルはトロイア戦争後のギリシャ軍のいざこざと帰国の困難を語ります。

原因は、小アイアスがカッサンドラを凌辱したことで、アテナの怒りを買ったことでした。

 

女神アテナとテレマコス、ピュロスに到着

ピュロスの海岸では、ネストルの一族郎党がポセイドンへの祭祀を行なっていました。

参列者は9つの組に分かれ、1組は500人。その9つの組の前には、9頭の牡牛が捧げられ、臓物を取り出し、肉を焼いて食べているところでした。

そこへ、メントスの姿に変身した女神アテナとテレマコスが向かいます。

女神アテナはテレマコスを諭します。
「テレマコスよ、ネストルは非常に聡明な方であるから、遠慮は一切無用。聞きたいことを、まっすぐ尋ねるようにしなさい」

「でも、メントル殿、年上の方にものを尋ねるのは、どうも気が引けてなりません」

「大丈夫、神霊が知恵を授けてくださるだろう。そなたは神々の思し召しで育ってきたのだから」

アテナとテレマコスが宴席に近づくと、ネストルの息子ペイシストラトスが近づき、彼らを食事の席に着かせました。臓物を取り分けて、黄金の杯に酒を注ぎ、まずは年上のアテナことメントルに話しかけます。

「客人、あなたがたもポセイドンにお祈りください。献酒と祈願を済ませましたら、私と同じくらい若いこちらの方にも祈願をさせてあげてください」

アテナがポセイドンに祈りを捧げます。次に、ペイシストラトスはテレマコスに盃を渡すと、彼は女神と同じように祈願しました。

パトロクロス葬式試合にてネストルとアキレウス(トロイア戦争時)〈トロイア戦争時:パトロクロス葬式試合にてネストルとアキレウス〉

テレマコス、父オデュッセウスの消息を尋ねる

その後、焼いた肉をたらふく食べ、主人であるネストルが口を開きました。
「さて、客人よ、あなた方はどこから来て、何をしに来られたのか、教えていただきたい」

それに答えたのはテレマコスでした。アテナは彼に勇気を吹き込みました。
「ネレウスの一子、誇り高きネストルよ。私はイタケから参りました、堅忍不抜のオデュッセウスの息子テレマコスです。

トロイア戦争後、無事に帰還された人々、帰れず無残な最期を遂げた人々のことは存じ上げています。

しかし、我が父オデュッセウスの最後がわかりません。ひょっとして、ネストル殿はご存じないでしょうか。

かつて、ネストル殿は父と共に戦った戦友でした。どうか、本当のことをお聞かせください」

トロイア陥落時、女神アテナを激怒させた事件

ギリシャ勢がすんなり帰国できなかった原因は、小アイアスがトロイアの姫カッサンドラをアテナの神殿で凌辱したからです。

このとき、彼女はアテナ像に抱きついていました。小アイアスはアテナ像もろともカッサンドラを押し倒したと言われています。

小アイアスの一行は帰国時、女神による嵐により難破しました。

しかし、小アイアスはポセイドンにより助けられ、岩礁に上がることができました。

小アイアスは「私は死なない。神の怒りは自分には及ばない」と公言。さすがにポセイドンも怒り、三叉の矛を投げつけて岩礁を打ち砕き、彼は溺死しました。

カッサンドラを凌辱する小アイアス〈カッサンドラを凌辱する小アイアス〉

アガメムノンと弟メネラオスの争い

ネストルは、ギリシャ軍の中のいざこざを語り始めました。
「怒った女神アテナは、総大将アガメムノンと弟メネラオスの間に争いを起こした。メネラオスは即刻帰国するよう提案した。

しかし、アガメムノンはアテナの怒りを鎮める祭事を行ってから帰国するつもりであった。だからといって、アテナの怒りが静まるわけがなかったのだが。

こうして、ギリシャ勢は二つに分かれた。

オデュッセウス殿と我らはメネラオスの意見に従った。ティノス島に着くと、我らは神々に生贄を捧げた。

その後、どうしたわけか、そなたの父と一部の者はアガメムノンの元へ引き返していった。

しかし、我らはこのまま帰国の途についた。だから、オデュッセウス殿の生死や戻っていった武将の生死はよくわからぬ。

我らは、トロイアを出て4日後にペロポネソス半島の東北部アルゴスに着いたというわけだ」