オリンピック起源の一説
(更新日:2021.04.23)
『オリンピックの起源の一説』を説明するに長々と『イリアス』のあらすじを書いてすみません。
しかし、アキレウスの不参戦と親友パトロクロスの死を説明し、いかに葬送競技会が重要な儀式であったか、知ってもらいたかったからです。
『イリアス』はアキレウスの物語と言っても過言ではありません。
そして、アキレウスを輝かせるのが親友パトロクロスであり、トロイアの敵将ヘクトールです。
ミシェル・マーティン・ドローリング〈アキレウスの怒り〉
トロイア戦争、10年目
アポローン神殿の祭司クリュセスの娘クリュセイスが、奴隷としてギリシャ総大将アガメムノンの手にありました。父親は娘を開放してほしいとギリシャの戦陣まできました。しかし、アガメムノンはその願いをはねつけます。
クリュセスはアポローン神にギリシャ軍を苦しめるよう祈願。アポローンはその願いを聞き入れ、ギリシャ軍の中に疫病を流行らせます。
アキレウスの激怒
疫病対策の軍議が開かれました。
預言者カルカ―スは、総大将アガメムノンが怖かったのですが、アキレウスの保護を得て告げました。
「クリュセイスを返さなかったから、アポローン神が怒ったのだ」と。
アガメムノンは激昂しましたが、最後には娘を開放することに同意。
その代わりに、アキレウスの戦利品ブリセイスをよこせと命令しました。
アキレウスは激怒。
「自分はもう戦わない、故郷に引き上げる」と宣言。
ギリシャ軍にとって、アキレウスの不参戦は致命的なことです。
その後、ギリシャ軍の劣勢が続きます。ある日パリスの放った矢が、医術で有名なアスクレーピオスの息子で軍医のマカオンを傷つけました。老将ネストールは彼を自分の戦車に乗せ、自分の陣営に運び入れました。遠くから見ていたアキレウスは、親友パトロクロスを見舞いにやります。
パトロクロスの死
老将ネストールはここぞと思い、パトロクロスを説得。
「アキレウスを戦いに復帰させてくれ。
さもなくば、君がアキレウスの甲冑をつけ、戦場に出てくれないか。
そうすれば、ギリシャ軍は勢いがつくし、トロイア軍はひるむだろう」
しかし、アキレウスは戦いに出ることを拒否。ただ、多くの武将が負傷していることを知っていましたので、パトロクロスの出陣は承諾。甲冑をかすことも了承し、助言だけしました。
「俺がいなければ、城砦は落ちない。だから決して深追いしてはならない」
パトロクロスがアキレウスの軍勢ミュルミドーンを率いて戦場に出ると、老将ネストールの予想通りでした。ギリシャ軍は喝采をあげ、トロイア軍は色を失いました。
パトロクロスは、ゼウスの息子サルペドンを倒しましたが、調子に乗ってアキレウスの助言を忘れ、城砦の近くまで深追いしてしまいました。
結果、パトロクロスはトロイア随一の勇将へクトールに倒されます。ギリシャ勢により死体は自陣に運ばれましたが、アキレウスの甲冑はヘクトールに奪われてしまいました。
アキレウスの出陣とヘクトールの死
アキレウスは大きな悲しみに襲われ、うめき声をあげました。その声を母である女神テティスが聞き、彼を訪れ慰めます。母はヘーパイストスに新たな甲冑を作ってもらうため、オリュンポスの鍛冶場に行きます。そして、夜明け前その新しい見事な甲冑をアキレウスの元に届けたのです。
アキレウスの出陣に、トロイア軍は意気もくじけ、逃げだします。
アポローン神の助言もあり、ヘクトールは少し戦場から離れて戦況を見ていました。
しかし、女神アテーナがヘクトールの勇敢な弟デーイポボスに変身して、ヘクトールをアキレウスと戦うようにしむけます。
こうして、アキレウスはへクトールを倒し、パトロクロスの復讐を遂げたのです。
アキレウスは無慈悲にもヘクトールの体を自分の戦車に結びつけると、トロイアの城砦の周りを走ります。
ニコライ〈アキレウスとパトロクロス〉
パトロクロスの葬送競技(オリンピックの起源)
ヘクトールを引きずったまま自陣に引き上げたアキレウス。親友パトロクロスの火葬壇を築き、葬儀をとりおこないました。その後、戦車競争、格闘、拳闘、弓術などの葬送競技会が開かれました。
第一の競技「戦車競争」
「馬と戦車に自信のあるものは、誰でも競技に参加してもらいたい」
エウメロス、ディオメデス、メネラオス、アンティロコス、メリオネスの五人が名乗りをあげました。
エウメロスの馬はアポロンが育てたこともあり、アポロンはエウメロスに迫ってきたディオメデスの鞭をはたき落としました。このことに気づいたアテナが鞭をディオメデスに渡し、馬にも力を与えました。結果、ディオメデスが勝利を手にしました。
第二の競技「拳闘」
「力優れた二人に、しっかり身構え拳で打ち合ってもらいたい」
エイペイオスの勝利。彼の一撃がエウリュアロスの頬を打つと、もはや立ってはいられません。
第三の競技「角技」
大アイアスvsオデュッセウス。二人の戦いは壮絶で、二人とも足を絡ませ、最後は二人とも倒れてしまいました。もはや、これまでとアキレウスは二人を止めます。
「二人とも、もうへとへとになるまで戦うのはやめた方がよい。賞品は両者同じものを受け取ってもらいたい」
第四の競技「徒競走」
オイレウスの子、俊足の小アイアスに続いてオデュッセウス、その後を若手の中で一番のアンティロコスが追っています。オデュッセウスは、競技の終盤にアテナに祈願しました。
「女神よ、どうか私の足に力を授けてください」
すると、アテナの妨害で、小アイアスが足を滑らせ砂につっぷしました。結果、オデュッセウスの勝利。小アイアスはこう苦言を呈しました。
「確かに、ある女神がわしの足を取られたのだ。いつもオデュッセウスに母親のようについている女神だよ」
最下位のアンティロコスもからかいます。
「みなさん、もうご存知のように、どうも神々は年配の人々を大切にするようですな。小アイアスは私より少し上ですが、オデュッセウスを指すと、こちらの方は我らの前の世代、青いお年寄りです」
第五の競技「槍試合」
アキレウスは、パトロクロスに討たれたトロイアの勇将サルペドンの武具を賞品にして、完全武装の槍試合を宣言しました。
大アイアスvsディオメデス。二人は三たび躍りかかりました。その後ディオメデスが大アイアスの首を狙っているのを見て、ギリシャ勢は大アイアスの身を案じ、試合を止めさせました。アキレウスはディオメデスが優勢だったと、彼に賞品を渡しました。
第六の競技「鉄の塊」(円盤投?)
参加者はポリュポイテス、レオンテウス、大アイアス、エポイオスの4人。エペイオスは笑われるほどの距離しか投げられず、レオンテウスと大アイアスはエペイオスよりはるかに遠くへ投げました。しかし、最後にポリュポイテスが上回り勝利しました。
第七の競技「弓」
船の帆柱にひもで足を結わいた鳩が的。弓の名手テウクロスが真っ先に名乗りをあげます。次にメリオネス。まず、くじ引きでテウクロスが矢を放ちます。しかし、鳩には当たらず、ひもを射抜きました。鳩は空に舞い上がります。ギリシャ随一の弓の名手テウクロスがなぜ的を外したかというと、弓の神アポロンに羊の捧げ物を約束しなかったからです。今度はテウクロスから弓をひったくると、メリオネスはまずアポロンに初子の羊の捧げ物を約束し、矢を放つます。すると、空中高く飛んでいた鳩に見事命中。もちろん。アポロンの加護があってのことです。
第八の競技「槍投げ」
賞品は槍と釜。総大将アガメムノンとメリオネスが立ち上がりましが、アキレウスは宣言しました。
「アトレウスの子アガメムノンよ。あなたがいかに万人に優れ、力と投げ技に秀でているかみな承知している。どうか、賞品を受け取ってもらいたい。メリオネスにも槍を与えるつもりでいる」
アガメムノンにも依存はなく、受け取った賞品の槍をメリオネスに与えました。ここにアキレウスとアガメムノンの和解が成就したのです。