ルニョー〈テーセウスとアリアドネー〉
王女アリアドネーの恋とダイダロスの助言
テーセウスたちはクレータ島に到着すると、ミーノース王の前に連れて行かれました。側にいた王女アリアドネーはテーセウスに一目惚れ。それ以来、彼女は眠ることもできず、いつも彼のことを考えていました。
「あの方を助けたい。ミノタウロスに殺されてしまったら、いやミノタウロスを退治してほしい。でも、退治しても、あのラビリンスからはけっして出られない。どうしたらいいの......」
ミノタウロスは、牛頭と人間の身体を持つ怪物。そのおぞましい出生からダイダロスが作った、決して出られないラビリンス(迷宮)に閉じ込められていました。
アリアドネーはダイダロスに相談します。
「ねえ、ダイダロス、ミノタウロスを倒した後、ラビリンスを出る方法を教えて」
「王にはわからぬよう、テーセウスに剣を渡しなさい。入り口で王女様が糸の端を持って、彼にこの糸玉を持たせなさい。ミノタウロスを倒したら、その糸をたどって出口に戻るよう伝え、一緒にお逃げください」
ダイダロスはそう言うと、アリアドネーに糸玉を渡しました。
〈ミノタウロスを退治するテーセウス〉
テーセウスのミノタウロス退治とアリアドネーとの逃亡
その夜、テーセウスはラビリンスに侵入し、ミノタウロスを倒してしまいました。すぐさま、アリアドネーと13人の生贄とともに逃亡。必ず追いかけてくるクレータの船の底には、穴を開けておくことも忘れません。
夜が明けると、城中が大騒ぎになりました。
「ギリシャの生贄がいない!」
「王妃アリアドネー様もおりません!」
王妃の乳母が、ミーノース王に伝えました。
真相が分かると、怒った王はテーセウスたちを追跡させます。船の穴を直すのに時間を取られ、かなり遅れています。その頃、テーセウスたちは、ナクソス島(ディオニュソスの島)で、しばし休憩をしていました。
「クレータの船が追ってきたぞ〜」
しばらくして見張りが大声で叫びました。テーセウスたちは大急ぎで出発。その時、アリアドネーは眠っていて、船に乗り遅れてしまいました。テーセウスは悲しみましたが、どうすることもできません。
※アリアドネーは、後にこのナクソス島で酒神ディオニュソスの妻になります。
〈アリアドネー〉
テーセウスの父アイゲウス王の自殺と盟友ペイリトオス
「もし生きて帰れば、目印に船に白い帆を掲げること」父アイゲウス王との約束でした。アリアドネーを置いてきてしまったテーセウスは、悲しみのあまり父との約束を忘れていました。
王は崖の上から船の帆が黒いままなのを見て嘆き、崖から飛び降りてしまいました。
アイゲウス王の自殺の後、テーセウスはアテナイの王に即位。彼はアマゾンに遠征し、王女アンティオペー(一説にはヒッポリュテー)をさらい、妻にしていました。
ある日、ラピテース族のペイリトオスはアテナイの牛の群れを奪おうと、マラトンの丘に侵入してきました。すぐに防衛に駆けつけたテーセウスを見た瞬間、ペイリトオスはその姿に敬服してしまいました。
「私が悪かった。どんな刑罰をも受け入れます」
「では、君の友情をくれ!」
テーセウスもペイリトオスの姿に感服し、以後二人は盟友となりました。
アンティオペーの死後、テーセウスはミーノース王の娘アリアドネーの妹パイドラーを妻としました。パイドラーの兄弟デウカリオーンによってです。このころは、ミーノース王はすでに死んでいて、ミノタウロスも退治されていましたので、アテナイとクレータは友好関係を築いていたのかもしれません。
※このデウカリオーンは、ギリシャ神話の「大洪水」の主人公とは違います。