マルチェフスキ〈死の神タナトス〉
タナトスは死そのものを神格化
眠りの神ヒュプノスの兄弟。
ヘシオドス『神統記』では、
「胸の内なる心は鉄、肝は情け容赦ない青銅で、一度捕えた人間は自分のものにする。不死なる神々にさえ憎まれる奴だ」
と、書かれています。ヒュプノスと共に大地の遥か下方のタルタロスの領域に館を構えています。ヒュプノスと共に背中に翼の生えた姿で描かれることもあります。
ホメロス『イリアス』では、
タナトスとヒュプノスの兄弟が英雄サルペドンの亡骸をトロイアからリュキアへと運び、初めてタナトスは人格神として捉えられました。
後世の神話では、「死神」として臨終をむかえる人の魂を奪い去ります。
人間に割り当てられた寿命が尽きると、その人間のもとへおもむき、髪を一房切り取って冥界の王ハデスに捧げ、それからその人物の魂を冥界に連れていきます。英雄の魂はヘルメスが、冥府へ運びます。
フュースリー〈サルペドンを運ぶタナトスとヒュプノス〉
アポロンとタナトス
死期が迫ったテッサリア地方ペライの王アドメトス。アポロンの好意によって身代わりを出せば命が助かることとなります。王妃アルケスティスが身代わりとなって死ぬことになりました。
そして、ヘラクレスが彼女を救い出すという、エウリピデスのギリシャ悲劇『アルケスティス』があります。
この悲劇のはじめに、アポロンが冥界の秩序を乱すと、タナトスはこぼします。
「アポロンさん、また悪さをするんですね。冥界に属する権限を差し止めて、自分のものにしたりなんかして」
→アルケスティス[1]あなたは、愛する人のために死ねますか?[ギリシャ悲劇]
ゼウスの怒り、死の神タナトスを派遣する
ゼウスは、河神アソポスへの告げ口とテューローの誘惑に怒り、死の神タナトスにシーシュポスを捉え、タルタロス(冥界よりさらに下にある世界)に連行するよう命じました。
タナトスがやってきて手錠をかけようした時、シーシュポスは彼にたずねます。
「その手錠はどう使うのかね?亅
タナトスが自分の手で実際にやってみせると、まさにその時、シーシュポスはタナトスに手錠をかけて、そのまま館に幽閉してしまいました。
困ったのは軍神アレスと冥界の王ハデス。
今までは、戦いで多くの人々が死んでいきました。また、病や死刑で死ぬ人間も多かったのです。しかし、死の神タナトスがいないので、自分の管轄であった「死」がなくなってしまったからです。
アレスとハデスの面目は丸つぶれ、尊厳も地に落ちてしまいました。そこで、軍神アレスはシーシュポスをとらえ、タナトスを解放します。解放されたタナトスが最初に与えた死が、シーシュポスでした。
一般的な夜の女神ニュクスの系図:ヘスペリデスはアトラスの子と言われる異説もあります。また、神話には出てきませんが、ニュクスの子としてアパテ(欺瞞)、ピロテス(色事)、ゲーラス(老い)もいます。(ヘロドトス「神統記」より)