パティニール〈ステュクスを渡るカローン〉
ステュクスへの誓いは、神々でも破れない!
ステュクスはティターン神族オーケアノスとテーチュースの娘。冥界を七巻きして流れている河です。勝利の女神ニーケー、怪物エキドナは、彼女の子だとされています。
ティーターン神族との戦い(ティタノマキア)の時、ステュクスは子供たちとともに最初にゼウスに味方しました。この報酬として、ゼウスは『神々の誓言を彼女の水によって誓わせる』ことにしました。
この誓言の時、ゼウスは虹の女神イーリスにステュクスの水を汲みに行かせます。
オリュンポスの神々でも偽りの誓いをすると、1年間、呼吸を止めて横たわり、アンブロシアとネクタルを与えられません。また、さらなる苛烈な試練が待っています。9年間、オリュンポスの神々との交際は禁じられます。会議にも宴席にも出られません。再び出ることが許されるのは、10年目になってからです。
だから、アポローン神はパエトンの願いをステュクス河に誓い、後で後悔したのです。その結果、最愛の息子はゼウスの雷帝で撃たれ、墜落死しました。
ガイヘッド〈ステュクスの水を運ぶ虹の神イーイス〉
冥界の河の渡し守カローン
カローンは、冥界の河ステュクス(憎悪)あるいはその支流アケローン川(悲嘆)の渡し守。エレボス(闇)とニュクス(夜)の息子で、長い髭の無愛想な老人。死者の霊を小舟で彼岸へと運びます。
冥界の河の渡し賃は、1オボロス
渡し賃は、1オボロス銅貨。古代ギリシアでは、死者の口に1オボロス銅貨を含ませて弔う習慣がありました。1オボロス銅貨を持っていない死者は後回しにされ、200年間その周りをさまよってから、やっと渡ることが許されます。
映画などで死者の目の上にお金をのせたりするのは、冥界の河を渡る渡し賃です。同じように、日本でも死者には三途の川の渡し賃として、一文銭をもたせてきました。
カローンが、生きたまま冥界の河を渡した人々
テーセウスとペイリトオス
テーセウスの友ペイリトオスは、無謀にも冥界の王ハーデースの妻ペルセポネーと結婚しようとしました。カローンが、なぜまだ生きているテーセウスとペイリトオスをステュクス河を渡したのかは疑問です。他に冥界への道があったのか?
ヘラクレス
カローンはヘラクレスの腕力により、無理やり渡さざるをえませんでした。この件で、カローンは冥界の王ハーデースに罰せられ、1年間鎖につながれました。
オルフェウス
死んだエウリュディケーを連れ戻しにきた時、オルフェウスの竪琴の音に魅了されて渡しました。
ロトチェンコ〈冥界の河の渡し守カローン〉
アイネイアース
巫子シビュレーの協力でペルセポネーに捧げる黄金の枝を持ってやって来たアイネイアース。その尊い贈り物に機嫌を良くして彼を渡しました。
プシュケー
彼女に課せられたエロースの母アフロディーテの3つの試練。最後の一つは、冥界の妃ペルセポネーに肌のツヤが出る化粧品を取りに行くことでした。冥界には死なないといけないので、プシュケーは死を覚悟して、塔から飛び降りようとしました。その時、ある声がして、カローンに渡す1オボロス銅貨2枚を持って行くことをプシュケーに伝えたのです。
ダンテとウェルギリウス
『神曲』地獄篇では、ダンテは地獄界に降ります。その時、カローンはダンテとウェルギリウスを船に乗せます。ギュスターブ・ドレや他の画家が、この件を多くモチーフに取り上げています。
ドレ〈冥界の河の渡し守カローン〉