〈テーセウス達に語るアケロオス〉
テーセウス、アケロオスの角が1本の理由を問う
カリュドーンの猪狩りに参加したテーセウス達。河の氾濫のため足止めされて、河神アケロオスの館に滞在することになりました。
アケロオスは英雄テーセウスが泊ることになって喜びました。アケロオスは河神ですが、このように偉大な人間には敬意を表する控えめな神だったのです。
そのアケロオスの角は、頭の片側に1本しかありません。テーセウスは、その理由を尋ねました。
「別に話して恥ずかしいことではないのですが...」
と前置きをすると、アケロオスは話し始めました。それは一種の敗北の物語ですが、ヘラクレスが相手では恥ずべきことではありません。
デイアネイラに求婚したアケロオスとヘラクレス
オイネウス王の娘デイアネイラには多くの求婚者がいました。その中でもヘラクレスとアケロオスは別格です。そのため、他の求婚者たちは二人に気後れして、引き下がりました。
ヘラクレスはゼウスの子であるということと10の難業をやり遂げたをあとでしたので、自信満々です。
しかし、アケロオスは神です。
「オイネウス殿、神が人間に負けることは恥ずべきこと。
また、私はあなたの国を蛇行している、いわば身内ですぞ。
(なんとか、私に娘さんをください)」
〈アケオロスとデイアネイラ〉
また、アケロオスはヘラクレスも批判しました。
「ヘラクレス君、あなたはいくらゼウスの子だと言っても
自慢できるものじゃない。ゼウスにはヘーラーというお妃がいます。
あなたはアルクメネーの子、つまり不義の子になるんですよ」
そういうアケロオスに対して、ヘラクレスは
「俺の得意技は口ではなく腕力だ。戦って勝てばよいこと。
だから、口ではいくらでも負けてやる」
そう言うなり、アケロオスに突進しました。
アケロオスもヘラクレスを不義の子とののしった以上、逃げるわけにはいきません。青い衣服を脱ぐと、見がまえました。
アケロオスとヘラクレスの戦い
ヘラクレスといえども、アケロオスを簡単に倒すことはできません。なんといっても、アケロウスはヘラクレスの2倍の体重があります。アケロオスは岩のようにデンと構えています。2人は二頭の雄牛のように、額と額をつき合わせて押し合います。
最初アケロオスがのしかかると、ヘラクレスも振り払うことはなかなかできません。3度失敗し、4度目にやっと振り払うことができました。しかし、ここからがヘラクレスのヘラクレスたるところ。アケロオスを一突きで後ろ向きにすると、その背中に飛び乗り抱きつきました。
アケロオスは歳をとっています。やっとの思いで、背中からヘラクレスを振り払ったことでもうヘトヘトになっていました。すかさず、ヘラクレスは雄牛の首をしめるように、首をしめます。アケロオスは耐えられず、ひさを落としてしまいました。ここで、アケオロスは必殺技である変身をしはじめました。
アケロオス、大蛇と雄牛に変身
まず、アケロオスは大蛇に変身しました。
しかし、ヘラクレスは幼児の時に2匹の蛇をわし掴みにし、殺した男です。また、レルネーの泉では水蛇・ヒュドラーを退治しました。ヒュドラーは首を1つ落とされると、2つの首が生えてくる水蛇です。だから、ヘラクレスにとって、変身した1匹の大蛇なんて、なんの苦にもなりません。大蛇の喉元を力強く押すと、アケロオスは息ができず苦しみます。
やっとヘラクレスの腕を振り払うと、アケロオスは今度は雄牛に変身しました。
しかし、ヘラクレスにとっては、これまたなんのことはありません。ネメアの獅子や冥界のケルベロスさえ従えたヘラクレスです。雄牛ごとき、恐れるに足りず。またしても、アケロオスは角をヘラクレスに掴まれると、地面に押し付けられてしまいました。そして、1本の角をポキリと折られてしまったのです。
アケロオスは、1本の角を失った理由をテーセウス達にそう語ったのでした。
その時、侍女たちが花や果物を豊かに盛ったその角を持って現れました。その角は、今では「豊穣の角」と呼ばれ、使われていたのです。
次の朝、テーセウス達はアケロオスの館を立ち去りました。
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