ギリシャ神話には、神々の怒りや悲しみの果てに、鳥へと変えられた人々の物語が数多くあります。その中でも、とくに印象的なのが、ピクス王・ダイダリオーン・アルキュオネーの3人です。
ピクス王は魔女キルケの恋心を拒んだために、ダイダリオーンは娘の死に絶望したために、アルキュオネーは最愛の夫を失ったために、それぞれ鳥へと姿を変えられてしまいました。
彼らはどのような運命をたどり、なぜ鳥になったのでしょうか?ギリシャ神話に登場する、悲しくも美しい3つの物語を紹介します。
キツツキにされたピクス王
魔女メデイアは、「アルゴー船の大冒険」で金羊毛を取りに来たイアソンに一目惚れしてしまいます。彼女は恋をすると盲目になり、父を捨て、弟まで殺してしまいました。
このメデイアと同じように、魔女キルケも恋をすると激しく燃え上がる性質を持っていました。
そんなキルケの前に現れたのが、「キルケの野」に足を踏み入れた若きピクス王。彼には、オルフェウスのように歌う美しい妻、歌姫カネンスがいました。
「私の目を奪った、この上なく美しい若者よ。その美しさは、女神である私をもひれ伏させたのです。太陽神ヘリオスの娘である私の、この恋心に情けをかけてください」
キルケは一途に愛を告白しましたが、ピクス王はきっぱりと断ってしまいました……。
鷹になったダイダリオーン
ダイダリオーンの弟、ケーユクスは語りました。
「あらゆる鳥を恐れさせる、あの鷹という鳥は、最初から鳥だったのでしょうか? いや、もともとは人間だったのです。その性格は、鳥になっても変わりません」
ダイダリオーンとケーユクスは、明けの明星と曙の女神エオスの子。
弟のケーユクスは平和を愛する優しい性格で、兄のダイダリオーンは争いを好む気性の荒い性格でした。
そんなダイダリオーンも、アルテミスの怒りを買って娘を失ったときは、耐えることができませんでした。弟のケーユクスがいくら慰めても、何の効果もありません。
そしてついに、彼はパルナッソスの断崖から飛び降りて……
カワセミになったアルキュオネー
兄ダイダリオーンの不幸を嘆き、ケーユクスはイオニアのアポロンの神託を受けることを決意します。
テッサリアからイオニアへ向かうには、エーゲ海を渡る長い船旅が必要でした。ケーユクスの決意を聞いた妻アルキュオネーは、何とかやめさせようとします。
風の神アイオロスの娘である彼女は、風の恐ろしさをよく知っていたのです。
「私も連れて行ってください。一人にしないでください」
アルキュオネーは懸命に訴えました。しかし、ケーユクスは妻を残して出航してしまいます。
そして、エーゲ海の嵐の中で……
ギリシャ神話の鳥に変えられた3人[まとめ]
ギリシャ神話には、人間が神々の意志によって動物へと姿を変えられる話が多く存在します。その中でも、ピクス王・ダイダリオーン・アルキュオネーの物語は、それぞれ異なる理由で鳥へと変身させられた点が特徴的です。
ピクス王はキルケの愛を拒み、キツツキに。
ダイダリオーンは娘を失った悲しみから鷹に。
アルキュオネーは夫を想うあまり、ついにカワセミへ。
彼らの変身には、神々の怒りや深い愛、そして運命の残酷さが込められています。ギリシャ神話の中で鳥に変えられた彼らの姿は、今も空を舞いながら、その物語を語り続けているのかもしれません。