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アルキュオネー

ドレイパー〈アルキュオネー〉

ケーユクスとアルキュオネー

テッサリアの国王ケーユクスは、暁の明星へスポロスの子。アルキュオネーは、風の支配者アイオロスの娘。二人は輝かしいばかりの美貌と幸せに包まれていた夫婦でした。

ケーユクスの兄ダイダリオンは娘の死を嘆き、パルナッソスの断崖から飛び降りました。この不幸な出来事のために、ケーユクスはイオニアのアポロンの神託を伺おうと決意しました。

テッサリアからイオニアに行くには、エーゲ海をわたる長い船旅になります。ケーユクスの決意を聞いたアルキュオネーは、何とかやめさせようとしました。

風の支配者である父から、風の恐ろしさを知っていたからです。

「私も連れて行ってください」

しかし、アルキュオネーまで海の危険にさらすわけにはいきません。ケーユクスは妻をなんとか説得して、残すことにしました。

「わが父、明けの明星に誓って、月が二度みちるまでには帰ってこよう」

ケーユクス、エーゲ海の嵐の中で逝く

エーゲ海の中ほどまできたある日。夜になると稲妻が光り、風も強くなり、海も大きくうねり荒れてきました。船は高く波の上に持ち上げられ、水面に叩き付けられます。

水夫たちは疲れ果て、なす術もありません。ケーユクスもただただアルキュオネーのことを思い、連れてこなかったことに安堵しました。

そして、ついに稲妻が帆柱を砕き、高い波が船を打ちくだきました。死が近づいたケーユクスは、波が自分を故郷に運んでくれるよう祈りました。

一方、アルキュオネーは、こうした恐ろしい災難に気付くはずもなく、ケーユクスの帰りを指折り数えて待っていました。夫の新しい着物をそろえたり、神々に祈りを捧げたりしていました。とりわけ夫婦愛の神ヘラには、香を絶やしたことがありません。

「無事でありますように。生きて帰ってこられますように。旅先で好きな女に会いませんように」
3つの祈りのうち、この最後の祈りだけは唯一かなった願いでした。

女神ヘラ、虹の使者イリスをヒュプノスの館へ遣わす。

女神ヘラは、死んでしまったケーユクスに対するアルキュオネーの祈りに絶えられなくなってきました。そこで、虹の使者イリスを呼んで、命じました。

「イリスよ、眠りの神ヒュプノスの館に行って、彼にケーユクスの死をアルキュオネーの夢枕に立って伝えるよう命じなさい」

眠りの神ヒュプノスを訪れるイリス〈眠りの神ヒュプノスを訪れるイリス〉

イリスに起されるモルペウスウアス〈イリスに起されるモルペウス〉
この絵では、イリスは直接モルペウスを訪れています。

どんよりした眠りの神ヒュプノスの館

七色の衣をまとうイリスは、大空に虹をかけながら出かけていきました。ヒュプノスの館は、どんよりとした空気に包まれ、静寂に支配されています。

門もなく、館の中央に黒檀(こくたん)でできた長椅子が一つおいてあり、黒い羽布団がしかれ、黒い垂れ幕がかかっています。

イリスは、まとわりつくどんよりとした空気を追いはらい言いました。

「ヒュプノスよ、もの静かな神よ。心のしずめ役、悩み疲れた胸のなぐさめ役よ。アルキュオネーのところに行って、ケーユクスの死とその遭難を知らせなさい」

イリスは伝えると、よどんだ空気、眠気が全身に忍びよってくるのを感じて、その場をすぐ立ち去りました。

ヒュプノスには、人間に変身するのが得意なモルペウス、鳥獣に変身するイケロス、岩や木、水に変身するパンタソスなどの息子たちがいます。

ヒュプノスはモルペウスにイリスの命令を伝えると、ふたたび枕に頭をのせ、心地よい眠りに身をまかせました。

ケーユクスに変身したモルペウス〈ケーユクスに変身したモルペウス〉

モルペウス、ケーユクスの影となって

モルペウスは羽音ひとつさせずテッサリアに飛んでいきました。着くとケーユクスに変身し、アルキュオネーの枕元に立ちます。

その顔は死人のように青ざめ、髪は水をふくみ、水がしたたり落ちています。そして、かがみ込んで、涙を流しながらこう言いました。

「この変わり果てた私(ケーユクス)が分かるかね? 不幸な妻よ、これはお前の夫の影なのだ。アルキュオネーよ、お前の祈りも通じず、私は死んでしまった。嵐が船を沈めてしまったのだ! さぁ、起きて、私の冥福を祈っておくれ」

「待ってください!あなたは何処へ行かれるのですか? 私もいっしょにお供をさせてください」

夢の中でアルキュオネーは叫びました。その大きな自分の声で目をさました彼女は、胸をたたき、着ているものを引き裂きました。

一羽のカワセミとなって。

翌朝早く、アルキュオネーは夫が出発した海岸に行きました。ふと海の上に目をやると、得体の知れぬものが浮いています。波がそれを近くに運んでにくると、難破した人間の体とわかり、彼女は言いました。

「お気の毒なお方、あなたにも奥さまがあり、奥さまもお気の毒に」

死体がもっと近づいてくると、それがケーユクスのものだと分かりました。その瞬間、アルキュオネーの体は、ケーユクスの元へ宙を飛んでいきました!

あの小さなカワセミとなって。カワセミとなったアルキオネーの接吻を受けるとケーユクスも取りになり、二人は今も連れそい飛んでいるのです。

ダイダリオーン、鷹になる!
※ケーユクス兄ダイダリオンのギリシャ神話です。

アルキュオネー〈アルキュオネーの上に2羽のカワセミが飛んでいます〉