〈プロメテウスと火〉
パンドラの意味=すべての神々からの贈り物。オリュンポスの神々は、飾りや着物、手芸や料理の技術、悪い心までもこの女に贈りました。そして、大神ゼウスはある意図を持って、パンドラに箱を授けたのです。
はたして、パンドラの箱は、人間と人間を愛するプロメテウスにとって、わざわいか? 希望か?
プロメテウス、天上から〈火〉を盗む
神が生き物を創造された時のこと。生き物が自分で生きていくために必要な力もも与えました。
鳥にはツバサを、馬には走るヒズメを、魚には水の中でも生きられるエラを。兄プロメテウスが指揮をとり、弟エピメテウスが実際に与えることになりました。
しかし、たくさんの生きものに贈り物をしたために、最後になって人間にあたえる能力がなくなってしまったのです。
「では、人間には天上の〈火〉を与えよう」
そう考えたプロメテウス。鍛冶(かじ)の神ヘーパイストスの炉から火を盗むことにしたのです。
そして、火を盗んだプロメテウスは、オオウイキョウの中に火だねを隠し、地上に戻りました。エピメテウスは喜んで、その火を人間に与えました。こうして、人間は火を使い、さまざまな技術を持つことができるようになったのです。
プロメテウス、ゼウスをだます
神と人間のあいだに1つの問題がありました。神へのお供え物である牛や羊の生贄のごちそうを神と人間の間でどう分配するかという問題です。
プロメテウスは考えました。一方には、おいしい肉と内蔵をまずそうな皮で包みます。もう一方は、固い骨をおいしそうなアブラ肉で包んだのです。
大神ゼウスはプロメテウスの思惑どおり、アブラ肉で包んだ骨の方を選びました。
しかし、ゼウスはまんまと騙されたのでしょうか? そこにはある意図が隠されていたのです。
「人間を愛するプロメテウスめ! ぬくぬく育つ人間め!」
人間とプロメテウスはゼウスの怒りを買ってしまいました。
ジョン・D・バッテン〈パンドラの創造〉
パンドラの誕生
大神ゼウスは、何でも作れる鍛冶(かじ)の神ヘーパイストスに美しい女を作るよう命じました。
早速、ヘーパイストスは、ドロをこねて女の形を作り、命を吹き込みました。オリュンポスの神々は、この女に様々なものを贈りました。飾りや着物、手芸や料理の技術、悪い心までも贈ったのです。
それで、この女はパンドラ-Pandora(すべての贈り物を与えられた女)と名付けられたのです。
そして、大神ゼウスは「決して、開けてはならぬ」と言って、〈箱〉をパンドラに持たせることにしました。この箱の中には、あらゆる病気・災いなどが入っていたのです。そして、ゼウスの意図である〈あるもの〉も紛れこんでいました。
その頃、プロメテウスは大神ゼウスの怒りから逃るために旅に出ていました。旅に出る前、弟エピメテウスにこう忠告しておきました。
「人間の災いになるから、神々からはどんな贈り物も受け取ってはならぬ!」と。
数日後、伝令の神ヘルメースが神々からの贈り物として、〈箱〉を持ったパンドラをつれてきました。弟エピメテウスは、喜んでパンドラをもらいうけました。パンドラの美しさに、兄プロメテウスの忠告をコロッと忘れてしまったのです。
〈ヘルメースに連れてこられるパンドラ〉
パンドラの箱に残ったものは?
エピメテウスはパンドラを妻にし、しばらくは幸せに暮らしていました。
しかし、「決して、開けてはならぬ」と命じられていた〈箱〉のことが、パンドラには気になって、気になって仕方がありません。
「開けてはならぬ」は「開けてみたい」のが人間の性(サガ)。パンドラも同じです。
ある日、エピメテウスが出かけている時、好奇心でいっぱいのパンドラは、とうとう〈箱〉を開けてしまいました。すると、病気、憎しみ、ねたみ、嫉妬...ありとあらゆる悪いものが、黒い霧と一緒に飛び出してきました!
恐ろしさから、パンドラは急いで〈箱〉のふたを閉めました。が、すでに中は空になっていました。実は、これが大神ゼウスの狙いだったのです。
そこに帰ってきたエピメテウスが、パンドラに声をかけました。「いったい、どうして泣いているのだ?」。が、パンドラは顔をおおい、ただただ泣いているばかりです。
その時です。箱の中から、やさしい声がします。「ふたを開けてください。私は〈希望〉です」。
エピメテウスは恐る恐るフタを開けると、〈希望〉の女神が現れ、空へゆっくりと舞い上がっていきました。パンドラとエピメテウスは、明るい光に包まれました。
ウォーターハウス〈パンドラ〉