1話5分で読めるギリシャ神話

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アガメムノン 中編

カサンドラー
〈カサンドラー〉The Stratford gallery

〔クリュタイメストラ、カサンドラーに向かって〕
クリュタイメストラ
「中へお入り、お前も。その車から出ておいで。あのヘラクレスだって、一時奴隷の身を耐え忍んだという話だもの」
〔カサンドラー、沈黙したままじっとしている〕
コロス
「奥方様はあなたに向かって言っているのですよ、聴くまいとしているのか」
クリュタイメストラ
「燕みたいに、異国の言葉を身につけているのでなければ、しっかりと立場を教えてやるのだが」
コロス
「さあ、ついていきなさい。奴隷としては優しい扱いなのだから」
クリュタイメストラ
「館の前で、もうぐずぐずしている暇はありません。中では、羊が生け贄の火にかけらるよう、待ち構えています。私の言葉が呑み込めないなら、手真似でもしたらどうかね」
コロス
「この娘には、通訳が入りようと見えまする」
クリュタイメストラ
「ほんとうに、気が変らしいわね」
〔クリュタイメストラ退場〕

コロス
「気の毒な娘御、車を降りて、新たな運命に身を譲ったらよかろう」
〔カササンドラー車を降りて、門のアポロン像を認めるや恐怖の表情で叫ぶ〕
カサンドラー
「おととととい、ぽぽい、だあ。おお、アポロン、アポロン」
コロス
「なぜそう悲しげに呼びかけるのか、アポロン神に」
カサンドラー
「アポロン、アポロン、私を二度までも滅ぼすのか」

カサンドラー
イーヴリン・ド・モーガン〈カサンドラー〉
カサンドラーに恋したアポロンは予言の力を彼女にあえたが、それによりアポロンの心変わりを直感した彼女はアポロンの求愛を拒んだ。怒ったアポロンは、その予言を誰も信じないようにした。そのため、トロイアの人々は彼女の予言を信じようとはせず、トロイアは陥落した。これが一度目、そして今回のことが二度目である。

コロス
「わが身の不幸を予言するというのか。まだその聖なる力は残っているようだ」
カサンドラー
「ああ、アポロン、どこへ、私を連れてらしたのか、なんという屋敷へ」
コロス
「アトレウス家の館へだ」
カサンドラー
「ああ、神に憎まれた家。身内を殺し、首を切ったこと、人間を屠り殺す家」
コロス
「どうやらこの異国の女は、鼻が利くらしい」
カサンドラー
「だって、そら、殺されるので泣き叫んでいる赤ん坊たち。その炙った肉切れを父親に食べさせたる」
コロス
「お前の占いの評判は聞いているが、そのことは衆知のこと」

アガメムノンの父アトレウスは、弟ティエステースと争って表面上和解した時、ティエステースの子供二人を殺してその父親の食事に供した。食べ終わってから、その事実を伝えたのである。ティエステースにはもう一人の子、アイギストスがいる。後登場。

カサンドラー
「まあ、なんてことを。途方もない禍いを、この館の中で企んでいるのか」
コロス
「今の予言は、全く分かりかねるが」
カサンドラー
「まあ、ひどい女、閨をともにする夫を沐浴で浄めてから----その先は言えない。ああ、生まれついた私の運の悪さ、自分の不幸までも注いでしまった」
コロス
「どうやら、これは不吉なことらしいぞ」
カサンドラー
「だとしても、私たちの仇を討つ別な人がやってきましょう。母親殺しに生まれた者、父親の報復をする人間が。それで祈るのは、ひと打ちできっぱり撃たれたいこと。もがきもせず、また楽に死ねますように」
コロス
「ああ気の毒な、悼ましいのはお前の予言の死の運命だ」
〔カサンドラー、館の中へ入る〕

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