1話5分で読めるギリシャ神話

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第十九歌前編:アキレウスとアガメムノンの和解

アキレウスに戦ってもらわなければ、ギリシャ軍は負ける。総大将アガメムノンは自分の面目が立つよう、過ちをヘラクレスの誕生時のゼウスを持ち出し、迷妄の女神アテのせいにします。皆を納得させる言い訳です。
アキレウスにしても、パトロクロスの復讐をするには戦いに出なければなりません。ここに至って、両者は和解せらずをえなかったのです。
それにしても、武勇の秀でたアキレウスの武隊ミュルミドネス勢をも後ずさりさせるほどのヘパイストスの武具とは!

テティス、新しい武具をアキレウスに届ける
ベンジャミン・ウエスト〈テティス、新しい武具をアキレウスに届ける〉

母テティスは、武具を持って戻る

アキレウスの母テティスは、武具を持って戻ってくるとパトロクロスの遺体にすがっているアキレウスに語りかけた。
「せがれよ、パトロクロスは神の思し召しで討たれたのだから、そのままそっと寝かしておこう。そなたは、このヘパイストスの武具を受け取っておくれ」
アキレウスは武具を見ると、その両眼は炎のごとく燃え立った。ミュルミドネス勢は、その武具のあまりの美しさと凄まじさを見て恐怖し、後ずさった。

アキレウスの楯
〈アキレウスの楯〉クリックして拡大

「母上、さすがに神の作られた武具です。死すべき人間に作れるようなものではありません。私は、出陣の支度をします。しかし、パトロクロスの遺体をこのままにしておくと、痛まないか心配です」
「せがれよ、案ずることはない。わたしに任せておきなさい。アガメムノンへの怨恨を断ち、戦いの決意を固めなさい」
女神はそう言うと、息子には力を吹き込み、遺体にはアンブロシアと赤ネクタルを鼻から差し入れた。

アキレウス怒りを収め、戦う決意をする。

アキレウスは船陣で凄まじい声をあげ、ギリシャ勢を奮い立たせた。傷ついたディオメデス、オデュッセウスが現れ、その後アガメムノンも姿を現した。
アキレススは、アガメムノンに
「私は、怒りを収めることにした。いつまでも腹を立てていてはならぬのだ」

アガメムノンの言い訳、迷妄の女神アテ。

アガメムノンは、アキレウスに答えるのと同時にみなにも話しかけた。
「わしの言わんとしていることをよく聞いてくれ。アキレウスの恩賞の女ブリセイスを奪い取ったあの日、わしの胸中には無残な迷妄の女神アテがいたのだ。ゼウスだって、この女神に惑わされたではないか」

ヘラクレスの誕生】参照。ゼウスはヘラクレスをアルゴスの王にするべく、「今日生まれるペルセウスの後裔が(ヘラクレスを想定)全アルゴスの支配者となる」と、この迷妄の神アテにより惑わされて誓言した。アテの背後には、ヘラの企みがあった。

「そのため、わしは狂気じみた迷妄に陥ってしまい、過ちを犯した。今、その過ちの代償を支払うことを決意した。
アキレウスよ、どうかそなたは戦いに立ち上がり、ギリシャ勢を鼓舞してくれ。一昨日オデュッセウスを訪ねさせた時に伝約束した品々と女たちを今取りに行かせる」

戦いに急ぐアキレウスとオデュッセウスの提言。

「アガメムノンよ、贈り物はいつでも構わぬ。今は、戦いのことだけを考えてくれ。のんびり論議している場合ではない」

オデュッセウス
「アキレウスよ、おぬしは剛勇の士であるが、今はみなに食事と酒を取らせてくれ。飯も食わずに、日が暮れるまで一日中戦える男はどこにもおらぬ。アガメムノンよ、贈り物は集会場に運ばせるようにすればよい。そうすれば、みなも納得するであろう。また、たとえ王たる身分であっても、今後はもっと公正な態度を取っていただきたい」

アガメムノン
「オデュッセウスよ、そなたの言葉、嬉しく思うぞ。アキレウスよ、戦いに急ぐ気持ちはわかるが、しばらく待ってもらいたい。また、みなも贈り物が届き、われらが誓いを交わすまで待ってもらいたい。
オデュッセウスよ、若者を選び、わしの船から贈り物を運んでくれるよう、また女たちも連れてくるよう手配してくれ。それから、ゼウスと陽の神に猪一頭を供儀に用意してもらいたい」

アキレウス
「ヘクトルに殺されたものが多勢地に横たわっている。冗談ではない。私なら今すぐ食事をとらず戦いに出て、報復を済ませた後、豪勢な食事を用意するよう命ずる。それまでは、横たわっている親友を思うと、悲しみで食事も喉を通ることはない」

オデュッセウス
「アキレウスよ、武力において、そなたは誰よりも優れている。だが、思慮においてはそなたより優れているわしの言うことを聞いてくれ。戦場では、来る日も来る日も多くの兵が死んでいく。だが、心を鬼にしてその日一日泣いて飲み食いし、次の激しい戦いに心を向けることができるのだ」
こう言うと、勇将の息子たちをアガメムノンの陣屋に向かわせた。

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