1話5分で読めるギリシャ神話

ギリシャ神話の神・女神・英雄のエピソードが、絵画で分かりやすい。また、ギリシャ神話はあなたの美術鑑賞に役立ちます。〈アートバイブル〉も、絵画でわかりやすい聖書です。

テレマコス、イタケに帰る

女神アテーナ

〈オデュッセイア 第十五歌〉

女神アテーナの助言

テレマコスは、ネストールの息子と一緒にメネラオスの屋敷で寝ていた。が、ずっと寝付かれないでいた。そこへ、女神アテーナがやってきて、テレマコスにささやいた。

「テレマコスよ、いつまでも遠く家を離れているのはよくない。あの無法な求婚者に、財産を食いつぶされてしまうぞ。すぐ、メネラオスに帰国の許しをえなさい。そなたの祖父と親族は、「エウリュマコスに嫁げ」とそなたの母ペネロペイアに迫っている。贈り物も結納の額も、ほかの求婚者を圧倒しているからな。ペネロペイアがいかに貞淑な女でも、いつオデュッセウスを諦めるかもしれぬ。女とはそういうものだ。

また、求婚者のやからがそなたの帰国を待ち、そなたを亡き者にしようと、イタケとサモスとの間の瀬戸で待ち伏せしている。イタケに近づいたら、他の乗員たちはみな町へ向かわせ、そなた一人は豚飼いのエウマイオスを訪ねるがよい。一夜明かしたら、豚飼いをペネロペイアのところに使いとして出し、そなたの帰国を伝えなさい」

女神アテーナはオリュンポスへと向かった。テレマコスはネストールの息子ペイシストラトスに
「おい、目を覚ませ。すぐ旅立ちできるよう馬を車につないでくれ」
「テレマコスよ、いかに急ぐからといって、暗夜に馬車を駆るわけにはいかぬ。また、メネラオス殿に挨拶もせねばならぬ。土産も用意するだろうしな。親切は受けねばならぬ」

ザールブリュッケンにあるテレマコス像
〈ザールブリュッケンにあるテレマコス像〉

メネラオスの館

メネラオスがヘレネーの傍から離れて起きてくると、テレマコスはすぐにでも帰国したいと頼んだ。
それに答えて、メネラオスは言った。
「帰国を望むそなたを引き留めることはない。だが、しばし待ちなさい。たくさんの土産を用意し、何より食事の用意をさせるのでな」

メネラオスとヘレネー、妾の子メガペンテスが食卓についた。メネラオスはテレマコスに盃を渡しながら
「これはヘーパイストスが作った混酒器、銀製で縁には黄金の細工が施してある」と言い、メガペンテスがその混酒器をテレマコスの前に置いた。
続いてヘレネーが、贈り物をした。
「かわいいテレマコスよ、私を思い出すよすがとして、これを贈りましょう。そなたが結婚する時、花嫁にこの衣装を着てもらいなさい。無事に帰国できますように」
ペイシストラトスが、それらの豪勢な品々を車に乗せに行った。

「では、若者たちよ、さらばじゃ。老雄ネストールによろしく伝えてくれ。トロイアでは、私だけでなく皆父のごとく優しくしていただいた」
「メネラオス王よ。必ず、ネストール殿にお伝えいたします。また、いつか父オデュッセウスに再会したら、あなたの歓待や貴重な財宝をいただいたことを語り聞かせます...」
テレマコスがこう言った時、右手に一羽のガチョウをつかんだ鷲が飛んだ。吉兆である。
メネラオスは言った。
「オデュッセウス王は家に帰り、報復を遂げよう。すでに帰国なされており、求婚者たちに災厄の種を蒔いておいでになるかも知れぬ」

テレマコス、スパルタを出発

「ペイシストラトスよ、急いでいるから、すまぬがネストール殿には会わずに帰国したい」
「急いで船に乗り、船員みな乗船させるがいい。家に行き、ことの次第を報告しよう。あの人は気性が激しいから、きっとそなたをすんなり帰すまい」
こうして、ペイシストラトスは家に向かい、テレマコス一同は乗船して出向の準備を始めた。

そこに、スパルタの隣国ピュロス国のかつての財産家メランプスの末裔、預言者テオクリュメノスがやってきた。彼はテレマコスに自己紹介したのち、同族の一人を殺し亡命中であること、追っ手から逃れるため、乗船の許しをこうた。
「乗船を拒むことはいたしません。故国イタケに帰えれば、できるだけのもてなしもしてあげよう」
テレマコスはこう言いつつも、無法者の求婚者から逃れられるだろうか、思案していた。

その頃、オデュッセウスは豚飼いエウマイオスに、父ラエルテスや妃ペネロペイアの現状を探り出していた。ラエルテスの奥方アンティクレイアは、息子オデュッセウスを気遣い死んでいた。さすがのオデュッセウスも心を痛めた。しかし、これから町に行って物乞いしたものかと豚飼いに相談していた。豚飼いはオデュッセウスを引き止め、自身の生い立ち、かつてはシュリエ島の王子であったこと、さらわれてイタケに連れてこられ、ラエルテスに買われた話などを語った。

鷹
〈鷹〉

テレマコス、イタケに帰る

一方、テレマコス一行は求婚者たちの目をかわして、イタケのとある岸に着いた。
「みなの者一同はこのまま船を町に向けていただきたい。私は一人、牧場の見回りに向かう。夕刻には町に帰り、明日の朝には、旅の礼として、みなにうまい肉と酒をふるまおう」

その時、テレマコスの右手に鳩をつかんだアポローンの鷹が飛んだ。鳩の引きちぎられた翼が船とテレマコスの間に落ちてきた。つかさず、預言者テオクリュメノスは、テレマコスを一同から離れたところに誘い出し話した。
「テレマコスよ、鳥が右手に飛んだのは神意に基づくもの、前兆に相違ありません。このイタケはあなた方の一族より王位にふさわしい家系はありません」

こうして、一同の船は町へ向かい、テレマコスは一人牧場に向かった。

トロイア戦争後のヘレネー〉参照