〈純白のカラス〉島根県:野室庸司さん撮影
純白のカラス
アポロンはテッサリアのプレギュアースの娘コロニスを愛し、彼女は身ごもりました。その頃、彼は話すこともできる純白のカラスを彼女との連絡係にしていました。
コロニスは父親には反対されていましたが、カイネウスの兄弟イスキュスという青年を好み、彼とも情を通じていました。
コロニスとイスキュスが密会していることを目撃したカラスは、アポロンに告げ口しました。アポロンは怒り、矢をコロニスに放ちました。矢は彼女の胸を射抜きました。彼女は矢を抜くと、真っ赤な血に胸を染めながら、アポロンに言いました。
「赤ちゃんを産んでから、罰を受けることもできましたのに」
「おまえは、一生喪に服くしていろ!」
アポロンは、激しい後悔に襲われました。あんなにもかっとなった自分、我が弓と軽々しい矢を憎みました。また、差し出がましくも彼女の罪を知らせたあの純白のカラスをも。彼は、カラスに言い放ちました。
「おまえは、一生喪に服くしていろ!」
この時から、白いカラスは黒いカラスに変わったのです。
〈アポロンに射られるコロニス〉
医術の神アスクレピオスの誕生
ところで、彼女は身ごもっていました。アポロンはその子を取り出すと、ケンタウロスの賢者ケイロンに預け育てさせました。ケイロンはたいそう喜び、この子に医術をはじめ、狩猟の技、諸々の知識を教えました。
この子が、医術の神アスクレピオスです。彼は人間の死を防ぐばかりか、死者をも蘇生させました。また、アテナからゴルゴーンの血を得て、左の血管から出た血で人を破滅させたり、右の血管より出た血で人を蘇生させたりもしました。
たとえば、〈テセウス物語〉ではこんなことがありました。
テセウスの後妻パイドラは、テセウスの息子ヒッポリュトスに恋をしてしまいました。が、その恋は彼に受けいれられず、彼女は「ヒッポリュトスに辱めを受けました」と遺書を残し自殺。
テセウスは、ポセイドンに息子に災いが起こるよう願いました。その結果、ヒッポリュトスは馬車から転げ落ち、手綱に絡まり、瀕死の状態になりました。
女神アルテミスが真相をテセウスに話すと、彼は息子のところに駆けつけ、彼を許しました。
しかし、ヒッポリュトスは父の腕の中で死んでしまいます。アルテミスはヒッポリュトスの死を悼み、アスクレピオスを説き伏せてヒッポリュトスを蘇生させました。
→テセウス神話[2]アリアドネの糸により、ラビリンスを脱出!
アスクレピオスの師
冥界の王ハデスはゼウスに訴えました「アスクレピオスの蘇生術が、冥界の掟を犯している」と。
また、ゼウスも人間がアスクレピオスから医術を教えられ、互いに助けあうことを懸念しました。神の力を願わなくなるからです。ゼウスは雷霆でもって、彼を撃ち殺しました。
父アポロンは、とうぜん怒りました。しかし、ゼウスに歯向かうことはできません。
彼は、代わりに雷霆を作ったキュクロプス達を殺しました。今度はゼウスが激怒、アポロンをタルタロスに投げ込もうしました。あわてたアポロンの母レトはゼウスに乞い、ゼウスは彼に一年間人間に使えることを命じることで許しました。
アポロンはペレースの子アドメートスの牛飼いとして、すべての牝牛に双生児を生ませるようにしました。
※アスクレピオスの母は、アルシノエーという説もあります。
〈アポロン、ケイロン、アスクレピオス〉