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アイネイアス

アキレウスvsアイネイアス

アキレウスが口を開きます。
「アイネイアスよ、そなたはかつて一度私の前から逃げ出した。何でまた来たか? 私を倒してトロイアの王位でも継ぐつもりか。そんなことにはならぬぞ。だから、痛い目に会う前に私の前から消え失せろ。ことが済んでから、気づくのは愚か者だぞ」

「アキレウスよ、おぬしの母は海の老人ネレウスの娘テティス。わしの母はオリュンポス12神の一人アフロディテ。位の違いがわかっているのか。そもそも、我が家系はぜウスの一子ダルダノスから始まっている。そして、今のプリアモス王のヘクトルまで続いている。その中には、かつてゼウスが連れ去ったガニュメデス、曙の女神に愛されたティトノスなど、神にゆかりが深いのだ。だが、今はもう言い争いはやめて、戦おう」

こう言い終えると、アイネイアスは槍を投げました。槍は神ヘパイストスが作った楯に刺さります。しかし、楯は青銅が二層、黄金が一層、錫が二層の五重の構造になっています。槍は、その三層目の黄金のところで止まりました。

今度はアキレウスが槍を投げると、槍は楯の周辺部を通して、そのまま地上に刺さります。すかさず、アキレウスは太刀をとると襲いかかります。対して、アイネイアスは大きな石を持ち上げました。

ポセイドンの焦リ

ポセイドン

「ああ、なんたることか、アイネイアスが討たれてしまうぞ。そうなれば、ゼウスが腹を立てるかもしれぬ。彼は、このトロイア戦争では死を免れることになっているのだ。ヘラよ、トロイア陥落がなくなるかもしれぬぞ。くそ、アポロンのせいだ。われらの誰かが、彼を救ってやらねばなるまい」

「ポセイドンよ、そなたが救ってやれば良いではないか」
ヘラは、そう答えました。

ポセイドンは、すぐさま二人の戦いの場へ降りて行きました。アキレウスの目には靄をかけ、アイネイアスの楯に刺さった槍を抜くと、アキレウスの足元に置きました。アイネイアスの身は宙に放り投げて、戦場の端まで移し、話します。

「アイネイアスよ、無謀にもほどがある。アキレウスとは戦うな。しかし、彼の命運が尽きて最後を遂げたら、第一線で戦うがよい」
そう言うと、ポセイドンはアキレウスのところに戻って、靄を払います。

「これはまた不思議なことだ。槍はここにあるのに狙った男の姿は見えぬ。どうやら、アイネイアスはどこぞの神に愛されているのだろう」
こういうと、アキレウスは隊列に戻り、ギリシャ勢を鼓舞します。

一方ヘクトルも、トロイア軍を勇気付けています。
「アキレウスを恐れるな。確かに彼は強い。しかし、私は彼に立ち向かうつもりだ。神が助けてくれるかもしれぬからな」

しかし、アポロンはへクトルに近づくと
「今は断じて、アキレウスと戦ってはならぬ」と、釘を刺しました。

アキレウスvsヘクトル

アキレウスはすさまじい勢いで、トロイアの将を倒していきます。その中には、ヘクトルの弟ポリュドロスがいました。ヘクトルはもはや引っ込んではいられず、アキレウスの前に出てきました。

「やってきたな、我が最愛の戦友を殺したヘクトルよ、かくなる上はもはや逃げるなよ」

すかさず、ヘクトルが槍を投げると、アテナが息を軽く吹きかけ、槍はヘクトルの足元に落ちます。今度は、アキレウスがヘクトルに襲いかかろうとすると、アポロンはいとも簡単にヘクトルをさらって隠します。

「またしても、命拾いしたな、この犬め。アポロン神が救ったのであろう。今度会うときは、必ず仕留めてやる。私にも神の助太刀があろうからな」
こう言うと、アキレウスはトロイアの他の武将をなぎ倒していきます。その姿はまさに鬼神の如し、彼の行くところ大地は血の海となりました。