〈ヒュアキントスの死〉
アポロンのお気に入りの若者ヒュアキントス
アポロンは、ヒュアキントスという若者を非常にかわいがっておりました。漁に行くときは網を持ってやり、狩りにいくときは犬をひいてやり、山に行くときは供となり、運動をするときも一緒です。
そのため、彼のデルポイの神殿は留守になり、しばらくは竪琴も弓矢も持つことはなかったほどです。
ある日のこと、二人は円盤投げをしていました。アポロンの投げた円盤を取ろうと、ヒュアキントスは急いで円盤に向かって走りました。
その時です、いつの世にも恋路の邪魔をする者はいます。
二人をねたんでいたゼピュロス(西風)が、円盤に強く息を吹きかけました。円盤は押し流され、ヒュアキントスの額を直撃。彼は血を流して、その場に転倒しました。
ボッチチェッリ〈ビーナスの誕生よりゼピュロス〉
アポロンの医術と薬草も効かず
アポロンはヒュアキントスに近づくと、自らの医術と薬草をもって彼を助けようとしました。
しかし、ユリの花が折れたように、彼はぐったりとその頭を下げています。彼は、最後にアポロンを見ようと顔を上げました。その目はうつろになって、頭はがっくり下にむき、死がもうすぐ訪れようとしています。
アポロンは、嘆きました。
「ヒュアキントスよ、お前は死んでいく。私は罪を犯したのだ。不死であることをやめて、一緒に冥界に行けたらいいのに。しかし、神であるがゆえ、それはかなわぬ。
ヒュアキントスよ、私の記憶と唄の中で一緒に暮らそう。竪琴の音でお前をたたえ、私はお前の運命を唄おう。
そして、ヒュアキントスよ、お前を私の嘆きを記した花にしてあげよう」
その花の形はギリシャ語の「αι αι」(あぁ あぁ) になり、地面に落ちた血から深紅色のヒヤシンスの花が咲き出てきました。
そして、毎年春になると「ヒュアキントスの祭り」が祝われることになりました。
※一般的にはヒヤシンスと言われていますが、アイリスの一種と想定されています。